もう一度歴史を変えるか カシオ計算機のサンプラー「SXC-1」大ヒットの秘密小寺信良が見た革新製品の舞台裏(41)(3/3 ページ)

» 2026年09月17日 06時00分 公開
[小寺信良MONOist]
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SXC-1の製品としてのこだわり

小寺 プリセットの音色が相当な数入ってますが「何をどれだけ入れる」あるいは「どうグループ化していくか」もポイントだと思うんですが、これはどのようにまとめていったんでしょうか。

石崎氏 プリセットのバンクに関しては、9つの音楽ジャンルのバンクセットを用意しました。バンク1がヒップホップ、バンク2がEDMといった構成なんですが、基本的にはヒップホップがメインです。それを中心にしつつ、その他の打ち込み、ハウス、レゲエなどの音楽ジャンルを加えていったという流れです。

photo パッドが色分けできるのもポイント[クリックで拡大] 出所:カシオ計算機

小寺 パッドが色分けできるようになっているのも画期的だと僕は思っているんです。これまでのパッド系のサンプラーは、グレーのパッドが並んでるだけで、みんなどうやってたたき分けてるのか謎でした。そのあたりが非常に分かりやすくなっていますね。

石崎氏 まさしくおっしゃる通りで、まず管理がしやすいというのを狙いとしていました。また、シーケンスを組んで再生を押すと、順番にピカピカ光ります。それが見ていて楽しいので、手に取っていただける時間が増えると考えて、カラーで光るパッドを採用しました。実際に私もこの機能をしっかり使っていて、黄色がドラム、青がベース、赤がギターと決めて設定しています。これがすごく分かりやすいんですよね。

小寺 この製品はサイズ感も特徴だと思うんですが、どのようにこのサイズにまとめようと決まってきたんでしょうか。

石崎氏 サイズ感に関しては、まず他社の製品を調査して、このサイズ感でスピーカーとマイク両方搭載しているものがなかったんですね。加えて、このサイズ感でしっかりとフィンガードラミングまでできる16個のパッドを搭載しているサンプラーがなかったんですよ。この2つの軸を追求すれば、唯一無二のサンプラーが完成するというところを起点として考えました。

小寺 この形状を見た時に、電卓をイメージしてるのかなという感じがあったんですが、そうではないということでしょうか。

石崎氏 もちろん電卓も相当意識してます。やはりカシオっぽいなと言われるようなデザインになるように、最終的に設計をその方向にまとめたというところもありました。

市場との対話の重要性

小寺 市場の話をお伺いします。想定している市場は音楽ビギナーと、既存クリエイターの方のちょっとしたサブ機というところでしたが、売れ方としてはやはり想定通りという感じなんでしょうか。

石崎氏 実際のところは想定以上になっています。今市場で反応していただいているのは、既存のサウンドクリエイターがメインです。最初に目をつけていただいたみたいな感じですね。

 ビギナーの潜在層はまだそれほど大きな動きにはなっていません。なかなか音楽やったことない人をいきなりサンプラーに呼び込むっていうのも難しいところもありますので、そこは順次開拓していきたいと思っています。

小寺 逆に言えば、サウンドクリエイターといわれる人たちにも“おもちゃ”じゃなくきちんと使えるように、USBでデータを出し入れするような機能を抜かりなく積んでいるというところが、支持されたという感じでしょうか。

石崎氏 はい。その機能は最初から決めていましたが、発売後に既存クリエイターさんから声をもらって改善していくという点は、重要視していました。購入いただいてからの要望や期待の声もしっかり取り入れて、プロダクトマーケットフィットを早期に実現するということを目指しました。

 SXC-1は一見するとおもちゃっぽく見えるかもしれません。もちろん本格的な競合モデルと比べると、あえてカットした機能などもあるのですが、まずはユーザーの声をしっかり聞いて足場を固めていくことが重要だと考えています。ちゃんとサンプラーとしての立場をまず確立した上で、これから購入されるビギナーさんにも、これはただの入門モデルじゃなくて、長く使える、しっかりとしたサンプラーであることを伝えていきたいという方針があります。

photo 外部連携も可能な設計[クリックで拡大] 出所:カシオ計算機

小寺 何か具体的にフィードバックから実現した機能はあるんでしょうか。

石崎氏 まさに、クリエイターさんからもらった声を反映した機能がパン(ステレオ音声の左右の位置を調整する機能)設定の追加ですね。SXC-1はモノラルなので発売当初はパン機能は搭載していませんでした。それを、クリエイターさんの声を受け、発売2カ月となる2026年7月にアップデートしました。

小寺 これは、ステレオジャックを挿すと、音源をどちらかに振ることができるということですか。

石崎氏 はい。パッドごとにも振れますし、マスターパンとしてシーケンス、音楽データそのものを右か左に振ることもできるので、パフォーマンス時に役立ちます。

SXC-1の販路と今後の展開

小寺 販路なんですが、楽器屋さんに行くとカシオの電子ピアノがたくさん置いてあります。SXC-1の流通は楽器と同じなんでしょうか。

石崎氏 はい。流通は、今までお付き合いのある楽器店さん含めて、まずそこはしっかりとお願いさせていただいています。それに加えてそもそも楽器屋さんにも行ったことがないビギナー層の方々に対して、どうやって手に取っていただけるかというところで、新規流通の開拓が必要だと考えました。まだわずかなんですが、ドン・キホーテさんなど新しい流通ルートにも置かせていただいています。

photo 店頭でも体験できることを重視したSXC-1の店頭什器[クリックで拡大] 出所:カシオ計算機

小寺 クリエイターエコノミー事業としては、これで当然終わりではなくて、まだこの次の幅広い展開が待っていると思います。サンプラーは今後もシリーズで出していくというような方向性はあるんでしょうか。

photo 発売以降、ほぼ毎月何らかのアップデートが続く[クリックで拡大] 出所:カシオ計算機

石崎氏 現時点では未定ですが、われわれが考えているのは、クリエイターエコノミーの中で、まずハードのSXC-1の機能強化アップデートを引き続き行っていくというところです。

 また、Waves Placeとの連携強化をしたいと考えています。今後はこれまで出してきたカシオのシンセサイザーの音源なども拡充して、このSXC-1とシームレスに音の連携ができるような機能など、そういった方面で強化していこうと考えています。


 1981年に、ドイツのクラフトワークが「電卓」という曲をヒットさせた。シングル盤のジャケットを飾ったのが、カシオの関数電卓「FX-502P」である。

 『ボクハオンガッカ、デンタクカタテニ』という歌詞が象徴するように、いつかは電卓で作曲したり、音楽を奏でたりする時代が来ると夢想したものだ。実際のクラフトワークのライブでは、この曲の時には電卓を模したコントローラーを使って演奏し、時にはお客さんにボタンを押させるといったパフォーマンスが行われている。

 しかし本当にわれわれ一般人が電卓で音楽を奏でるとしたら、それを実現するのはカシオしかないとずっと思っていた。SXC-1はある意味その夢を、45年後にかなえたマシンと言うことができるだろう。

 現在サンプラーは、DJプレイやクラブミュージックの場で活躍しているが、SXC-1は一定の音楽ジャンルに限らず、多くの人が音楽を作ったり、演奏したりする楽しみを味わえる設計となっている。1980年代にSK-1を手にした人はもちろん、サンプラーを使ったことがある人は、ぜひ手にしてほしい。

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筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

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ライター/コラムニスト。1963年宮崎市出身。
18年間テレビ番組編集者を務めたのち、文筆家として独立。家電から放送機器まで幅広い執筆・評論活動を行う。一般社団法人「インターネットユーザー協会」代表理事。2015年から4年間、文化庁文化審議会専門委員を務めたのち、2019年に家族で宮崎へ移住。近著に改訂新版「学校で知っておきたい著作権」がある。

Twitter(現X)アカウントは@Nob_Kodera

近著:改訂新版「学校で知っておきたい著作権」(汐文社)


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