“見えるだけ”では現場は動かない、成果につながる「見える化」5つの工夫:DX Compass:標準化のわなと現場の知恵(5)(1/2 ページ)

実際の現場でのエピソードに基づき「DX推進の指針(DX Compass)」となるような視点を解説する本連載。第5回となる今回は、見える化(データの可視化)について考えます。

» 2026年10月05日 06時00分 公開
[伊与田克宏,MONOist]

 製造業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、避けては通れない課題となっています。しかし、多岐にわたる業務にデジタル技術を適用し効果を生み出していくためには、各社各様のストーリーがあり、一筋縄ではいかない現実が存在します。

 本連載では、実際の現場で見聞きしたエピソードに基づき、DX推進の指針(DX Compass)となる考え方について解説していきます。第4回では在庫の理想と現実について解説しましたが、第5回となる今回は、成果を上げる企業が行っている「見える化(データの可視化)」について考えていきます。

「見るだけ」から現場が自発的に動き出す見える化

 製造業のDXにおいて、多くの企業が最初に取り組む施策の一つが「見える化(データの可視化)」です。しかし、立派なダッシュボードを構築し、グラフや数字が画面に並ぶようになったからといって、自動的に業務改善が進むわけではありません。データが見えるようになっただけで現場が動かないのは「ただ見せているだけ」だからです。

 ところが、筆者が運営するユーザー会(mcframe Users Group: MCUG)などで話を聞くと、見える化によって、人の行動が変わり、大きな成果を上げているケースを目にすることがあります。「見える」ようになるだけで大きな効果につなげられる場合もあるのです。

 では、どういう条件がそろえば、効果を生む「見える化」になるのでしょうか。成否を分けるのは、ちょっとした工夫です。その要因は、高度なAI(人工知能)分析や複雑なシステムではなく「データによって人の感情を動かし、行動を変革させるちょっとした見せ方の工夫」にあります。

 そこで、現場の行動が変わった、分かりやすい2つのケースを紹介します。

見える化で在庫が減少したケース

 1つ目のケースとして「在庫の見える化」を取り上げます。在庫が見えるようになれば、すぐに在庫は減るのでしょうか。もちろん、それだけで在庫を減少させることにはなりません。ただ、どこに何がいくつあるか見えるようになったというだけです。ポイントは、そこにどういう要素を加えるかということです。

 在庫を見たときに、その在庫がこれから必要なものなのか、そうでないのかも同時に見えたらどうでしょうか。今ここにある在庫に、数量だけでなく、それがいつ使われる予定のものなのか、もしくは使われる予定のないものなのかを示すようにします。すなわち、必要な在庫なのか、そうでない在庫なのか、またそれがいくらなのかも、同時に見えるようにします。それだけで「見えた在庫」に対する動きが変わってきます。

 ある製造業では、部材在庫だけで約40億円分がありました。しかし、実はその半分以上はなくても実際の生産活動は可能であることを、在庫分析を通じて経営トップ層が確認しました。

 そのため、経営トップ層はなんとかこの在庫を自然な形で減らせないかを考え、トップダウンでその状況が見える仕掛けをシステムに施しました。システムで在庫を見るたびに、部材在庫を、図1のように分類し、それぞれに金額をつけて表示し、在庫の種類や意味が分かるようにしました。つまり、「なくても問題ない在庫」を明確に示したわけです。

 その結果、システムを見るたびに現場の担当者が“まずい”と捉えてさまざまな検討と対策を講じるようになりました。最終的に、約半年で不要在庫の半分にあたる10億円の削減が実現しました。在庫分析の結果で不要とされたものの中でも、現場の運用上必要な安全在庫や回転在庫などもありますので、これらも含めて精査された上で、無駄な在庫をおおむね削減できました。

photo 図1:在庫削減行動を促す「見える化」の例[クリックで拡大] 出所:筆者が作成

「在庫の見える化」における3つのポイント

 この「在庫の見える化」の事例には3つのポイントがあります。

 1つ目は、「不要な在庫」という意味を、単純な見える化に加えることによって、不要な在庫を増やさないという行動につながったということです。すでに増えてしまった在庫についても、その内訳を追えるように見える化をし、なぜ増えたのかを検証することができ、またそれを反省することができます。すなわち、その後の生産計画や購買活動にその反省内容を反映可能です。

 2つ目は、それを金額という数値で見えるようにしたということです。在庫を見たときに、不要というラベルとともにその金額が同時に出ることで、「不要在庫の金額を減らせ」という重要な経営メッセージが現場に伝わることになります。また、人の注意資源は限られていますので、特に金額によって優先順位が明確になり、経営上、より効果的な行動が取れるようになります。

 3つ目は、付随的な効果ですが、副産物として製造リードタイム削減につながり、モノづくりのスループット改善にもつながったということです。生産現場では部材の欠品が出ると製造ラインが止まるため、欠品を嫌い、部材在庫を持ちたがる傾向があります。しかし、在庫が増えると、製造リードタイムは長くなります。在庫が少なくなることで、モノがスムーズに流れるようになり、製造リードタイムが短くなり、より工場としてのスループットが上がります。こうした付随的な効果が期待できるのも見える化の効用だといえます。

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