在庫は必要、でも増やしたくない――不確実な時代の「在庫の持ち方」DX Compass:標準化のわなと現場の知恵(4)(1/2 ページ)

実際の現場でのエピソードに基づき「DX推進の指針(DX Compass)」となるような視点を解説する本連載。第4回となる今回は、VUCA時代の在庫の理想と現実について考えます。

» 2026年09月01日 07時00分 公開
[伊与田克宏MONOist]

 製造業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、避けては通れない課題となっています。しかし、多岐にわたる業務にデジタル技術を適用し効果を生み出していくためには、各社各様のストーリーがあり、一筋縄ではいかない現実が存在します。

 本連載では、実際の現場で見聞きしたエピソードに基づき、DX推進の指針(DX Compass)となる考え方について解説していきます。第3回ではDelivery(納期)の現実や「納期順守率」について解説しましたが、第4回となる今回はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代の在庫の理想と現実について考えます。

「在庫=悪」の常識が変わっても、在庫はできるだけ少なく

 製造業では一般的に「在庫は悪で、減らすべきもの」ということが常識だと考えられてきました。しかし、近年のコロナ禍や国際情勢の緊迫化に伴ういくつもの世界的な物流混乱を経て、その認識は変わりつつあります。世界的に大きな変化の影響を受けるサプライチェーンの状況から、「在庫は、モノづくりにおける変動や不確実性を吸収するために必要なものだ」と、ある意味で原点回帰ともいえる変化が生まれています。

 だからといって、在庫をただ増やしてよいわけではありません。「在庫の役割」が問われる今だからこそ「どの在庫をどれだけ、どのように持つべきか」を定める重要性が高まっています。在庫についての考え方を、あえて一言でいうと「できるだけ少なく、最低限」と今までとあまり変わりがない言葉になります。在庫の増加はキャッシュフローを悪化させ、保管コストを膨らませます。さらに、部材の劣化や型落ち、製品の売れ行き変動によって「二度と使われない在庫」として残り続けるリスクもはらんでいるためです。

 適正な在庫を考える上で重要な指標となるのが、キャッシュフローです。原価管理(コストマネジメント)という視点で考えたときには、原価を包含する指標としてキャッシュフローを考えた方が適合します。在庫を増やすと、会計上で原価が下がる場合がありますが、実質的な原価低減やメリットにはつながりません。もちろん(在庫積み増しに頼らない)実質的な原価低減は、そのままキャッシュフローの増加に貢献します。実質的な在庫低減、そして原価低減へのアプローチはもちろん重要です。

 在庫が増えるということは、現金がモノに姿を変えて倉庫で眠っている状態です。一方で、現金は選択肢を増やします。機会を逃さず未来への投資ができます。さまざまなかたちで、顧客へ価値を提供する手段を準備し、長期的に利益を生み出すための資金となります。在庫よりも現金の方がその可能性が大きく高まることは明らかです。

 在庫課題の対応については、計画系(PSI[生産、販売、在庫管理]やS&OP[販売運用計画]など)の大きな話になりがちですが、今回は現場の知恵に焦点を当てて、不確実性に備えつつ、いかにして在庫金額を低く抑えるかについて、2つのケースから考察してみます。

ケース1:眠れる高額在庫の復活劇で在庫金額を大きく下げる

 1つ目は、入手が比較的難しく、価格変動の大きい材料の在庫削減の取り組みを紹介します。

 その企業では、変動や不確実性を吸収するために必要な在庫を確保していましたが、単価が高いこともあり、長期間動きのない「滞留在庫」の金額の大きさが経営課題になっていました。現場は、データを活用し、部門間の垣根を超えて課題に取り組みました。

 まず、システムから「在庫回転率がほぼ0%」かつ「在庫金額が大きい」部材を抽出しました。そして、MRP(資材所要量計画)から出てくる日々の発注依頼データと照合し「いま新しく発注しようとしている部材の代わりにこの眠っている高額在庫を転用できないか」を徹底的に検討しました。

 設計部門や製造部門も巻き込み「少し加工すれば使える」「この製品の代替として機能する」といった可能性を1つずつ検討していきました。さらに、どうしても自社で転用できないものは、そのまま他社へ販売する道も模索しました。

 この地道な取り組みの結果、滞留在庫は劇的に削減され、流動在庫を含めた工場全体の在庫金額を従来比で3分の1以上削減することに成功しました

photo 滞留在庫金額削減のイメージ[クリックで拡大] 出所:筆者が作成
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