PFOS/PFOAの発がん性の評価PFASリスクの基礎知識(6)(2/2 ページ)

» 2026年09月03日 06時00分 公開
[永井孝志MONOist]
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リスクのものさし

 がんリスクは上記のような生涯の発がん確率として表現することが多いが、より分かりやすいリスクの提示方法として、リスクのものさし(リスク比較のための標準的なリスク比較セット)がある。このリスクのものさしでは、がん、自殺、交通事故、火事、落雷の5つの要因をセットとし、リスクは人口10万人当たりの年間死者数で表現する。この特徴として、

  1. リスク比較の対象を恣意的に選択できないように比較対象を一定にさせる
  2. 大きなリスクから小さなリスクまでをカバーできる複数の基準をセットにする
  3. なじみがあって統計的に安定している
  4. リスク認知(心の中で考える主観的なリスクの大きさ)の偏りがかかりにくい

などの点がある。

 これらの死因別のリスクについては2020年の人口動態調査による値を用いた(落雷は単年度の死者数が少ないため2010〜2019年の平均値)。また、PFOS/PFOAの生涯発がんリスクを年間死亡リスクに換算するために70で除した。ここから発がん=死と見なして10万人当たりの年間死者数を計算すると、PFOS:0.056人、PFOA:0.0001人となる。この結果をリスクのものさしとともに示すと表1のようになる。PFOSのリスクは火事と落雷の間であり、PFOAのリスクは落雷以下であることが分かる。また、PFOSの発がんリスクはがん全体のリスクの5400分の1程度となっている。最初に紹介したIARCの分類(PFOAがグループ1、PFOSがグループ2B)と発がんリスク(PFOS>PFOA)が一致していないことも分かるだろう。

表1.PFOS/PFOAの発がんリスクを表すリスクのものさし 表1.PFOS/PFOAの発がんリスクを表すリスクのものさし[クリックで拡大]

 これは発がん=死亡とみなした場合の数字であるが、実際には発がん確率よりも死亡リスクは低くなる。また、PFOS/PFOAは使用を中止した後は曝露濃度が減少傾向にあるため、生涯に同程度の曝露を受けるとの仮定はリスクを過大に評価する。

 さらに、発がん確率が曝露量に比例するという線形閾値なしモデルを用いた計算であるため、かなり過大な見積もりとなっている。このように、最大限に大きめにリスクを見積もってもこのくらいという解釈であるため、実際のリスクはさらに低くなるであろう。



 PFOS/PFOAの発がん性の評価とリスクの大きさについて解説したが、次回は発がん性とともに報道などで注目されている血液中濃度の基準値とその根拠について解説する。

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筆者紹介

永井孝志

リスク分析を専門とする研究者。博士(理学)。ブログ「リスクと共により良く生きるための基礎知識」を運営。著書に「基準値のからくり」や「世界は基準値でできている」。国立研究開発法人で化学物質の環境リスク評価等に従事しているが、本記事は所属機関における業務とは無関係である。


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