材料開発を加速、実験化学者が計算科学を扱える新ツールマテリアルズインフォマティクス

計算科学のハードルが下がる。Matlantisは、レゾナックと共同開発した新機能「Matlantis Case Studio」を近日中に提供開始する。AIとの対話により、専門外の研究者でも簡単に計算の実行から要約までを一貫して行え、材料開発のスピードを加速できる。

» 2026年09月17日 07時45分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 Matlantisは2026年9月16日、汎用原子レベルシミュレーター「Matlantis」の新機能「Matlantis Case Studio」を近日中にα版として提供開始すると発表した。レゾナックと進めてきたMatlantisの共同実証プログラムの開発成果となる。

計算科学を専門としない研究者が初見で計算を完走できることを確認

 材料開発の現場では、AI(人工知能)を活用した高速な原子/分子シミュレーションが実験と並走することで、研究開発のスピードと精度を大きく高められることが明らかになってきた。

 一方で、計算科学の利活用は依然として専門人材に限られており、実験化学者が「自らの仮説を計算で試す」ハードルは高い状況が続いている。

 今回の共同実証プログラムは、この状況を打開し、あらゆる研究者が計算科学のツールを自在に扱える「両利き」の状態を、ツール環境の側から支える取り組みだ。実験化学者にとって、計算科学が日常の研究活動に自然に組み込まれた道具の1つとなる状態を目指し、レゾナックと共創を進めた。

 同プログラムは、レゾナックの計算情報科学研究センター(横浜市神奈川区)および伊勢崎事業所(群馬県伊勢崎市)と、MatlantisおよびPreferred NetworksのMatlantis開発チームが2025年10月から共同で進めてきたパートナーシッププログラムだ。

 レゾナックの計算科学者/実験化学者による機能プロトタイプの実利用と、そこから得られた気付きを短いサイクルで機能に反映するアジャイルなプロセスによって、機能開発と実証を重ねてきた。研究現場の生の声こそが同機能の設計/改善の起点であるという考えの下、両社は、この共創を通じて、実験化学者にとって日々の研究開発で使える機能を追求した。

 この共同実証を通じて開発されたMatlantis Case Studioでは、計算科学に触れる機会が少なかった研究者にとっても、初回から直感的に手を動かせるユーザー体験を目指してインタフェースを設計した。具体的には、以下の3点を柱としている。

Matlantis Case Studioの画面イメージ Matlantis Case Studioの画面イメージ[クリックで拡大] 出所:Matlantis

 1点目は、既存の計算事例から、自身の研究開発テーマと関連性の高い材料/物性のものを選択することで、対応する計算をスムーズに開始できることだ。2点目は、直感的に操作可能な、簡易的な選択/入力とAIを組み合わせたインタフェースで、計算条件の設定から実行までを一貫して進められることである。3点目は、計算結果を自然言語で要約表示し、実行履歴の保存/比較を可能にすることだ。

 両社が協働し、これまで4回の実証実験を通じて機能プロトタイプの改善を重ねる中で、計算科学を専門としない研究者が初見で計算を完走できることを確認した。

 実験化学者であるレゾナック 伊勢崎事業所の倉林一樹氏は「これまでは、開発中のポリマー材料の密度や基材との密着性などを計算で知りたいとき、計算科学者の協力が必要であり、結果を得るまでに一定の時間を要していた。今回、自分の手元で既存の計算事例の一覧から目的に合うものを選び、AIとの対話を通じて計算を実行することで、初期検討の目安となる試算値が得られた。実験に着手する前のアイデア検証や候補絞り込みを自ら進められるだけでなく、計算結果を基に計算科学者との議論も深まり、より高度な計算が必要な課題への接続も円滑になりつつある。実験化学者が計算への理解を深め、計算科学者と共通の言語/ツールを用いて課題解決に取り組むことで、日々の研究の進め方そのものが変わっていく感覚がある」と手応えを語った。

 この取り組みが目指すのは、単なる新機能の提供ではなく、実験化学者が計算科学を日常的な業務に取り入れ続けられる「仕組み」を、共創で確立することだ。実験化学者が自ら手元で計算を試せるようになれば、これまでは計算科学者との連携の中で扱われてこなかった小さな計算アイデアも研究の流れの中で試せるようになり、従来取りこぼしていた発見につながる可能性があるという。

 同時に、実験化学者にとって計算科学がより身近な道具となることで、計算科学者との対話はより本質的なテーマに深まり、研究組織における計算/実験の協働全体が加速することが期待されている。

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