HEREは四輪向けの領域で約40年にわたる歴史を持つが、ここ10年ほどは新たな柱として二輪向けのソリューション展開を本格化させている。
APAC市場では二輪車の保有率が極めて高く、四輪車に次いでSDV化の波が訪れつつある。HEREは四輪車と共通のシステム基盤を用いながら、地図データ上の「属性情報」を使い分けることで二輪向けソリューションを展開してきた。
枝氏は「例えば、50ccスクーターの進入禁止規制や、二輪なら安全に通れる細い道の判別など、変数を用いてバイクの特性に最適化した案内を算出している」と説明する。HERE Technologiesが2026年5月に実施したユーザー調査では、二輪車を生活インフラとする東南アジアに対し、日本のライダーはツーリングなどレジャー目的の利用が多く、ルートや到着時間の正確性を非常に重視する傾向も浮き彫りになった。
こうしたライダー特有の課題として、現在HEREでは天候データ連携による「雨」への対策にも注力している。
枝氏は「当社のウェザーAPIを活用すれば、ルート上でいつ雨に降られるかを事前に把握し、雨宿りできるカフェをレコメンドすることも可能だ。実装に必要な部材はすでにそろっており、現在はティア1メーカーや二輪車メーカー各社とともに、いかに直感的なUI/UXとして見せるかという取り組みを進めている」と現状を語った。
二輪車においてこうした高度なソフトウェア実装が可能になりつつある背景には、車両自体の急速なデジタル化と電動化の波がある。
枝氏は「海外を中心とする電動バイクの台頭により、バッテリー残量や充電スポットの案内が不可欠となった。それに伴い、最初から大型のデジタルディスプレイを搭載した車両が標準になりつつある」と指摘する。「メーターパネルのデジタル化という潮流は、いずれ内燃機関の二輪にも波及していくことは間違いない」(同)と強調した。
今後は情報の提示にとどまらず、車両の安全制御との連携も見据えている。四輪車のADAS(先進運転支援システム)と同様に、二輪向けの安全制御システムであるARAS(先進ライダー支援システム)領域や制御系システムへの地図情報の活用に注力し、二輪車メーカーとの双方向のデータ共有を通じて安心で安全なモビリティ環境をソフトウェア面から支援していく構えだ。
もちろん、四輪車と二輪車の共通基盤となるプラットフォーム自体のアップデートも継続して行われている。その最新の成果として、2026年5月にはAIの意思決定を支える新たな位置情報基盤「Location Reasoning」を発表した。
これは、AIが苦手とする動的な空間推論を大規模言語モデルに任せるのではなく、HEREの地図データやリアルタイム交通情報などを組み合わせて、システム側で直接空間計算を行う仕組みである。確率的な推論に頼らず、現実世界の状況に基づいた正確で確定的な意思決定をAIシステムに提供する役割を果たす。
枝氏は今後の開発方針について「当社の地図やソフトウェアは、四輪向けや二輪向けといった明確な切り分けはしていない。パラメーターの設定によって多様な用途に対応でき、グローバルとローカルのニーズをうまく吸収して汎用的に使えるものを構築する」と示した。
設立から30年の節目を迎え、単なる地図データプロバイダーからモビリティ社会の基盤となるプラットフォーム企業へと変貌を遂げたHERE Japan。ソフトウェアが移動の価値を決めるこれからの時代においても、モビリティの進化を根底から支え続ける。
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