ここまで説明した通り、触媒反応はPt表面で進むことから、Pt粒子の表面積が大きい方ほど反応場が増えるため、反応速度が大きくなります。図7に示す通り、1つの大きな粒子を小さく分割した方が、全体の表面積が大きくなります。Pt粒子全体の表面積をPt質量で割った時の値をPt比表面積(m2/g-Pt)とよびます。
電極触媒の活性の違いは、触媒単位質量当たりに流れる電流、すなわち質量活性(A/g-Pt)という指標で比較することができます。電流(A)は単位時間に流れる電荷(C/s)のことですので、電流値が大きいということは反応速度が大きいということになります。
質量活性とPtの比表面積は基本的に比例関係になると考えられます。従って両者の関係は式(A)のような形で表すことできます。この時、比例定数にあたる部分が比活性(A/m2-Pt)と呼ばれる指標になります。
式(A)から、比活性が同じ触媒ではPt比表面積が大きいほど質量活性が大きくなりますので、まずはPt比表面積が大きくなるように触媒を作製することが基本となります。ただし、小さくなりすぎると活性が低下することもあります。また、耐久性にも影響(小さな粒子ほど長期発電中に大粒子化するなど)します。Pt比表面積が同じであれば、比活性を上げることで質量活性が大きくなります。比活性を上げる方法については次回に説明する予定です。
Pt触媒の活性を上げるためには、Pt比表面積を大きくすることが基本だと説明しました。それでは、定量的にPt比表面積を比較するにはどうするのでしょうか?
図4(2)の顕微鏡写真から、できるだけ多くのPt粒子の大きさを測定し、その平均粒子径から表面積を計算することは可能ですが、全体のごく一部の粒子だけを観測した時のデータに基づいていることに注意が必要です。
これに対して少し専門的になりますが、電極化した試料のPt表面積を測定するには電気化学的な方法があります。その測定法の原理を図8に示します。測定したいPt電極を硫酸中に浸漬し、例えば、「水素標準電極」と呼ばれる基準電極に対してPt電極へ印加する電圧(正確には「電位」という)を上げたり下げたりのサイクルを繰り返すと(この測定法を「サイクリックボルタンメトリー」と呼ぶ)、図8のような曲線(「サイクリックボルタモグラム」と呼ぶ)が得られます。
図8中の黄色の部分は、硫酸中の水素イオンが電子を受け取ってPt表面に吸着する際に流れる電荷に相当します。この面積を計算することでPtの表面積を求めることができます(具体的な計算方法は割愛します)。
このように電気化学的に測定して求めたPtの表面積をECSA(Electrochemical Surface Area)とよびます(図9)。この測定での注意点は、カーボン担体の小さな細孔に電解液が入り込めない場合があります。このような細孔中にPtが存在していると、そのPtは測定できないことになります。実際のMEAでは、イオノマーと接していないPt粒子は測定されないことになります(図9a)。
ECSAは、担体の種類によって大きく変わります。また、同じ担体を使っても、触媒の製造法やPtの担持率によっても変わってきます。一概に具体的な数値を挙げるのは難しいですが、例えば比較的大きな比表面積を持つカーボンを使った50%Pt/Cの場合、100m2/g-Pt程度のECSAとなります[参考資料3]。たった1gのPt粒子の表面が、10m×10m相当の面積になるのです。
電気化学的方法に対して、Pt表面に吸着しやすいガス(COやH2)を使って、粉末状態のまま測定するガス吸着法でもPt表面積を求めることができます(図9b)。この場合、ガス分子は非常に小さいため、小さな細孔内のPtにも到達して吸着することができます。従って、ECSAの値はガス吸着法で求めた表面積以下になります。
両測定の違いを利用すると、ガス吸着法でPtの全表面積を測定しておき、MEAの形態でECSAを測定すると、実際にMEA中で有効に働いているPt表面の割合を見積もることができます。これを「Pt利用率」とよびます。触媒層に使われているPtを無駄にしないように、利用率ができるだけ100%になるようなMEAの作製方法が望まれます。
連載第3回では、まず燃料電池セルの発電特性と過電圧について説明しました。さらに、過電圧の中でも活性化過電圧に関わる電極触媒の基本構成や要求事項、さらにその活性を支配するPt表面積の測定法を解説しました。次回は、どのようにして触媒の活性向上を図ってきたのか、特に触媒の比活性を中心に解説していきます。
敬愛(けいあい)技術士事務所 所長・技術士(化学部門) 森田敬愛(もりたたかなり)
1991年4月〜1993年6月、ほくさん(現エア・ウォーター)。1993年7月〜2005年3月、ジョンソン・マッセイ・ジャパンにて燃料電池用電極触媒の研究開発に従事。2005年6月〜2014年3月、田中貴金属工業にて燃料電池用電極触媒や電解用電極の開発などに従事。2014年4月に個人事務所「敬愛(けいあい)技術士事務所」を設立し、現在まで水素・燃料電池分野の技術コンサルティングに従事。
[1]触媒は、無触媒反応とは異なる反応経路を提供し、その結果、反応はより低い活性化エネルギーで進行する。この考え方については、田中虔一、田丸謙二、『触媒の科学』(産業図書、1988年)、P41を参照
[2]パナソニックwebサイト
[3]森田敬愛、固体高分子形燃料電池電極触媒開発の現状と課題、自動車技術会春季大会燃料電池フォーラム予稿集,pp.13〜16,2005年5月
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