電極触媒の基本燃料電池と構成材料の基礎知識(3)(2/3 ページ)

» 2026年06月24日 06時00分 公開

3.電極触媒の基本構成

 前回(第2回)で簡単に説明した通り、電極層に用いられる触媒(一般の工業用触媒と区別して「電極触媒」と表記することが多い)には、電子伝導性の高い炭素粉末(カーボン:C)の上に白金(Pt)のナノ粒子が担持されたもの(Pt/Cと表記)が使われます。単体の元素の中で、80℃程度の低温領域でもアノード反応とカソード反応の両方で高活性を示し、さらに酸性条件下でも安定であるPtが、PEFC用の電極触媒として使われています。

 図4の(1)にPt/C触媒の模式図を示します。カーボンは、Ptのナノ粒子を載せる下地材(専門用語で「担体」と呼ぶ)としての役割を担います。この後に説明しますが、触媒反応は触媒粒子の表面で進行するため、反応場(反応が起こる場所)としての表面が多くあるほど反応が効率よく進みます。触媒として働くPtナノ粒子は非常に小さく、そのままでは粒子同士がくっつきやすく(凝集)、有効に使われる表面が少なくなってしまいます。Pt粒子の凝集を抑制して、個々の粒子を有効に利用できるように、下地材としての担体の上に広げて(分散させて)表面に固定化(専門用語で「担持」)しているわけです。

図4 カーボン担持Pt(Pt/C)触媒 図4 カーボン担持Pt(Pt/C)触媒[クリックで拡大]

 また、Ptは希少で高価な材料ですので(連載の終盤で説明予定)、できるだけ少ない量で反応場を増やすためにも、Ptをナノ粒子化することが有効です。

 担体上のPt粒子の担持量については、使用条件や担体の種類などによって変わってきます。Ptの担持量は、一般的に触媒粒子全体に含まれるPtの質量比で表します。例えば、Ptの担持量が50%の製品の場合、「50%Pt/C」のように表記します。

 実際のPt/C触媒の外観は、担体の炭素粉末と同じ黒い粉末状態です。これを電子顕微鏡で観察した写真を図4(2)に示します。薄く灰色に広がって見える部分が担体のカーボンで、その上に担持されたPt粒子が黒い点で点在しているのが観察されます。写真中の黒い横線が20nmを表していますので、Pt粒子1個当たりの大きさが数nm程度であることが分かります。

 担体に要求される条件としては、主に次のような点が挙げられます。

(a) 電子伝導性が高い

(b) PEFCの環境下でも安定である

(c) 比表面積(質量当たりの表面積:m2/g)が大きい

 (a)は電極触媒として最も基本的な要求事項となり、セルの抵抗過電圧にも関わってきます。(a)を踏まえて(b)と(c)の条件を満たす材料として、一般的にカーボン系の粉末材料が使われてきています。

 カーボンと一口に言っても、活性炭(植物由来材料を炭化したもの)や、化石資源由来材料から製造されるカーボンブラックなど、さまざまなものがあります。活性炭は、比表面積が非常に大きいものがありますが、植物由来ということで金属などの不純物が比較的多く含まれ、電解質膜への影響が懸念されます。

 これに対し、カーボンブラックは不純物が比較的少なく、製造方法によっては比較的比表面積が大きいものが製造できます。主なものとして、石油系原料を炉内で炭化した「ファーネスブラック」、アセチレンを原料に作った「アセチレンブラック」などがあります。

 一般的なカーボンブラックは、PEFCの運転環境下では次の反応によって酸化消失(腐食)する可能性があります。

(4) C+2H2O→CO2+4H++4e

 今回は詳細な説明は割愛しますが(今後の連載で解説予定)、燃料電池のカソードでは(4)式が起こり得る環境となっています。この反応の速度をできるだけ抑制するために、担体に使われているカーボンは高温で熱処理するなどして黒鉛化度を高めた(結晶学的には、(002)面のグラフェン平面間の距離がより小さくなる)材料が使われることがあります。

 このカーボンの腐食問題は、180℃付近で運転されるリン酸形燃料電池においても古くから認識されていて、さまざまな対策が行われていました。より低温の80℃程度で作動するPEFCでもカーボン腐食が起こることが分かっています(今後の連載で解説予定)。上記(b)に関しては、「酸性」+「水による酸化反応」において安定という条件を満たす材料が求められます。

 (c)については、基本的には比表面積が大きいほど担持するPt粒子の大きさは小さくなる傾向になります。ただし、カーボン粒子の表面には種類によっては小さな穴(「細孔」と呼ぶ)があり、それらの細孔の大きさや量、さらには担持方法などによっては、Pt粒子の担持状態に違いが出てきます。

 担体の細孔構造は、担持されているPt粒子の安定性や触媒層中のガス拡散性に影響することが分かってきています。今後の連載で解説する予定ですが、細孔構造を制御したカーボン担体や、カーボンよりも安定性が高くかつ電子伝導性も高い金属酸化物(セラミックス)系担体などの開発も進んでいます。

4.三相界面

 燃料電池セルの触媒層は、Pt/Cと電解質であるイオノマーとの混合物で構成されていることは前回説明しました。触媒粒子とイオノマーはどのような状態で混合されるのが理想的なのかを見ていきます。

 図5には、触媒粒子とイオノマーが接触している状態の模式図を示しています。実際の反応が進行するには、反応ガス(気相)と触媒の白金(固相)と電解質(イオノマー相)の三相が接した場所が必要で、これを「三相界面」と呼びます。図5の左に示した通り、厳密な三相界面では、三相が接している部分が線状に存在しています。実際には図5右にある通り、イオノマーで薄く被覆されたPt表面も三相界面として働きます。

図5 触媒層内の三相界面のイメージ 図5 触媒層内の三相界面のイメージ[クリックで拡大]

 それでは実際の反応がどのように進行していくのかを、図6にカソードでの酸素還元反応の進行をイメージした図で見ていきます。

 まず初めに(図6A)、酸素が三相界面に到達してPt表面上にくっつきます(「吸着」と呼ぶ)。イオノマーで厚く覆われている部分の下のPt表面は、酸素の到達が遅くなってしまうため、酸素還元反応が進みにくくなります。Pt表面に吸着した酸素分子は、Pt表面との相互作用で酸素原子同士の結合が弱まっていきます(図6B)。ここにアノードから移動してきた水素イオンと、外部回路から移動してきた電子が反応して、最終的に生成した水分子がPt表面から脱離して外部へ排出されます(図6C)。

図6 カソードで酸素還元反応が進行する様子 図6 カソードで酸素還元反応が進行する様子[クリックで拡大]

 実際の酸素還元反応の進み方はもっと複雑で、酸素分子がPt表面に吸着した後に、吸着酸素原子が生成したり、OOHやOHなどの反応中間体が形成されたりなど、細かい反応ステップ(「素反応」と呼ぶ)を経由していきます。酸素還元反応のメカニズムは十分には解明されておらず、最近顕著に発展してきた計算科学も取り入れながら、触媒の研究開発が現在も世界中で続けられています。

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