「稼ぐ在庫」と「死に資産」の境界線 キャッシュを生み出す在庫設計4つの鉄則「稼ぐサプライチェーン」の作り方(2)(1/4 ページ)

在庫は減らすものではなく、設計するもの――。本連載では、実践的な知見をもとに「稼ぐサプライチェーン」の構築法を解き明かします。第2回となる今回は、在庫を「形を変えたキャッシュ」として捉えるB/S視点からさらに踏み込み、会社のキャッシュを最大化する「在庫設計」の4つの実践ポイントと、稼ぐためのマネジメント手法を取り上げます。

» 2026年06月17日 07時00分 公開

はじめに:その「在庫削減」は、本当に会社を強くしているか

 「在庫を減らせ」。製造業の経営会議や改善活動の現場で、繰り返し語られる言葉です。もちろん、在庫そのものが悪いわけではありません。在庫はB/S(貸借対照表)上の資産でありながら、企業のキャッシュを固定化する存在でもあります。過剰在庫は、資金繰りを圧迫し、倉庫スペースを埋め、将来的な値引きや廃棄リスクを高めます。しかし、単なる「在庫削減」は危険です。目的のない在庫削減は欠品リスクを高め、販売機会の損失や顧客離脱につながります。

 一方で、戦略なき在庫の積み増しも、企業のB/Sを静かに侵食します。売れる見込みの薄い在庫、目的が説明できない在庫、誰も意思決定できずに残り続ける在庫は、企業のキャッシュを固定化し、経営の自由度を奪います。

 つまり在庫とは、一歩設計を誤れば、企業のキャッシュを食いつぶす「キャッシュ破壊装置」にもなり得る存在です。第1回では、在庫を「モノ」ではなく「形を変えたキャッシュ」として捉えるB/S視点を解説しました。第2回となる本稿では、そこからさらに一歩踏み込みます。本稿のメッセージは1つです。

 在庫は、減らすのではなく、設計する。

 ここでいう「在庫設計」とは、全ての在庫を一律に削ることではありません。欠品リスクの高い戦略在庫は守りながら、説明できない在庫、滞留在庫、陳腐化在庫を圧縮し、キャッシュを生む在庫構造に変えていくことです。本稿では、「稼ぐサプライチェーン」を実現するための在庫マネジメントを整理します。

在庫は「必要悪」ではなく、経営の「緩衝材」である

 まず立ち返るべきは、「なぜ企業は在庫を持つのか」という問いです。理論上、需要を100%予測し、即座に生産/調達/配送できるなら、在庫はゼロで済みます。しかし現実には、需要は変動し、供給には制約があり、外部環境も突然変わります。だからこそ、企業は在庫を持つのです。在庫とは、不確実な世界で事業を継続するための「バッファー」、すなわち経営の緩衝材です。

1.サプライチェーンに潜む「3つの不確実性」

 在庫が存在する最大の理由は、需要と供給の間にある「ズレ」を吸収することです。このズレは、主に以下の3つの不確実性から生じます。

在庫が吸収する3つの不確実性 在庫が吸収する3つの不確実性[クリックで拡大]

 在庫とは、これらの不確実性から経営を守る「保険」のようなものです。ただし、持ちすぎればコストになり、持たなすぎればリスクにさらされます。在庫をゼロに近づければよいわけではありません。問うべきは、「どのリスクに対して、どの程度の在庫を持つべきか」です。

2.「在庫削減」という言葉の危うさ

 経営層や財務部門が「在庫を減らせ」と命じる背景には、多くの場合、キャッシュフロー改善という正当な理由があります。過剰在庫を削減すれば、運転資本が圧縮され、手元資金に余裕が生まれます。しかし、現場が「在庫量」だけを追い始めると危険です。

 バッファーが不足すれば欠品が発生します。欠品は、その時点の売上損失にとどまりません。特にB2Bビジネスでは、一度「納期を守れない会社だ」と見なされると、顧客そのものを失うリスクがあります。また、無理な在庫削減は、物流や調達の現場に別の負荷をかけます。小ロット高単価の仕入れ、特急配送、小口配送、急な生産変更などが増えれば、B/S上の在庫は減っても、P/L(損益計算書)上の売上原価や物流費が悪化することもあります。在庫だけを切り出して「減らすこと」を目的化すると、かえって会社全体の収益性を悪化させることがあります。

 第1回で述べた「サプライチェーンで持つべき3つの視点(P/L、B/S、キャッシュフロー)」は在庫マネジメントにおいても必要です。

在庫マネジメントと3つの視点 在庫マネジメントと3つの視点[クリックで拡大]

 在庫を減らすこと自体が目的ではありません。P/L、B/S、キャッシュフローのバランスを取りながら、会社として最も合理的な在庫水準を決めることが目的です。削るべきなのは、必要な在庫ではありません。説明できない在庫、回転しない在庫、キャッシュ化の道筋が見えない在庫です。

3.適正在庫とは何か

 多くの現場では、適正在庫は過去平均販売数、在庫日数、前年実績、経験則、担当者の肌感覚などで設定されています。これらは実務上、一定の意味があります。しかし、それだけでは不十分です。本来の適正在庫とは、次のように定義できます。

 適正在庫とは、企業が許容する欠品リスクと、キャッシュ効率のバランス点である。

 適正在庫に唯一の正解はありません。企業の戦略、商材の特性、利益率、顧客との関係、供給リードタイムによって、最適点は変わります。

 例えば、医療関連商材や産業用部品のように、欠品が顧客の業務停止や信頼低下に直結する商材では、厚めに在庫を持つ合理性があります。B2Cでも、粗利が高く、欠品による顧客体験やブランド毀損リスクが大きい商材では、在庫を厚く持つ判断もあり得ます。一方で、高級ブランドのように希少性そのものが価値になる商材では、あえて供給を絞る判断もあります。適正在庫は「〇〇だから厚く持つ/薄く持つ」と機械的に決まるものではありません。経営戦略に基づいて決めるべきものなのです。

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