在庫を正しく管理するためには、全ての在庫を一括りにしてはいけません。「在庫が多い」「在庫が少ない」という量の議論だけでは、本質を見誤ります。見るべきは、その在庫がキャッシュを生んでいるのか、それともキャッシュを止めているのかです。
B/S視点で見ると、在庫は大きく2つに分けられます。将来の売り上げや利益につながる「良い在庫」と、キャッシュを固定化し、利益を圧迫する「悪い在庫」です。
良い在庫と悪い在庫は固定的な分類ではありません。発売直後には戦略在庫だったものが、販売計画を下回れば滞留在庫となり、時間の経過とともに陳腐化在庫へ変わることもあります。だからこそ、在庫は定期的に見直す必要があります。
1.目的別に見る「持つべき在庫」
戦略的に持つ合理性がある在庫として、代表的なのは以下の3つです。
これらは、将来の売り上げや利益を取りに行くための在庫です。言い換えれば、キャッシュを生むための「投資」に近い存在です。特に高利益率の商品や、欠品による顧客離脱リスクが大きい商品では、適切に維持することが合理的に設定されます。
2.経営をむしばむ「悪い在庫」
一方で、早急に手を打つべきなのが、キャッシュの流れをせき止めている在庫です。
これらの在庫は、B/S上では「資産」に計上されています。しかし実態としては、キャッシュを生む能力を失った「死に資産」に近い存在です。倉庫スペースを占有し、管理コストを発生させ、将来的な値引きや廃棄ロスを生むという意味で、「見えない赤字」でもあります。会計上も、正味売却価額が取得原価を下回る場合には、棚卸資産評価損の検討が必要になります。陳腐化在庫はキャッシュの問題であると同時に、利益にも影響し得る問題です。
3.陳腐化在庫はなぜ生まれるのか
陳腐化在庫とは、単に「古い在庫」ではありません。重要なのは、将来キャッシュ化できる可能性です。例えば、次のような在庫は陳腐化リスクが高いと言えます。
特に近年は、顧客ニーズの多様化によってSKU(最小管理単位)が増えやすくなっています。色/サイズ違い、専用品、限定品などが増えることで在庫構造は複雑化し、少量ずつ売れ残る在庫が積み上がりやすくなります。
4.陳腐化在庫は「見えない赤字」である
多くの企業では、陳腐化在庫がB/S上に残り続けます。会計上は資産であっても、実態としては将来売れる可能性が低く、値引きや廃棄の可能性がある。つまり、帳簿上の資産価値と、将来キャッシュ化が見込める価値にズレが生じている状態です。ここで厄介なのは、在庫には人の感情が入り込みやすいことです。
「せっかく作った」
「原価が高かった」
「いつか売れるかもしれない」
「廃棄すると失敗を認めることになる」
こうした心理が働き、意思決定が先送りされます。しかし、持ち続けることにもコストがあります。倉庫費用、管理/棚卸工数、品質劣化リスクなどを考えれば、「捨てないこと」が常に合理的とは限りません。在庫は、売るか、使うか、処分するか。いずれかの出口を持たなければ、キャッシュを止め続けます。
5. 判断基準は「回転速度」と「貢献利益」
在庫の良しあしを判断する際、担当者は金額や数量という「量」で見がちです。しかし、経営にとって重要なのは、「スピード」と「利益」です。在庫量が多くても、高い貢献利益を生み、高速で回転しているなら、それは「稼ぐ在庫」です。逆に、在庫量が少なく見えても、動かず利益も生まない在庫は、企業から現金を奪い続ける「悪い在庫」です。
そこで使いたいのが、「在庫日数」という見方です。「在庫が10億円あります」といわれても、それが多いのか少ないのかは判断しづらいものです。しかし、「在庫が180日分あります」と言われれば、「今の売り上げペースだと、現金化に半年かかる」と分かります。在庫を金額ではなく、日数という時間軸で語ることが、議論の質を大きく変えます。
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