では、在庫を「削減対象」ではなく「キャッシュを生む資産」として扱うために、明日から何をすべきでしょうか。ここでは、実務で使える4つのポイントを整理します。
1.在庫日数を「キャッシュの言葉」に翻訳する
まず取り組むべきは、在庫を日数で見ることです。在庫金額だけでは、それがどれほどキャッシュを固定化しているのか直感的に分かりません。しかし、在庫日数で見れば、「何日分の販売に相当する在庫が眠っているのか」が明確になります。
例えば、月商10億円、売上原価率60%の企業を想定します。この場合、月間の売上原価は6億円、1日当たりの売上原価は約2000万円です。この企業が在庫日数を10日改善できれば、約2億円分の運転資本を圧縮できる可能性があります。
もちろん、実際には支払条件、回収条件、安全在庫水準、リードタイム、需要変動なども考慮が必要です。しかし、「在庫日数を10日改善することが、どれだけのキャッシュインパクトを持つのか」を示すだけで、経営層の関心は大きく変わります。「在庫を減らしましょう」ではなく、「在庫日数を10日改善すれば、運転資本をこれだけ圧縮できます」と伝えるべきです。なお、ここでいう在庫日数の改善とは、全ての在庫を一律に削ることではありません。欠品リスクの高い戦略在庫は守りながら、説明できない在庫、滞留在庫、陳腐化在庫を圧縮することを意味します。
在庫削減を、キャッシュ創出活動へと翻訳する。これが、SCM担当者が経営に近づく第一歩です。
第1回で解説したCCC(Cash Conversion Cycle:キャッシュ・コンバージョン・サイクル)は、事業単位や主要カテゴリー単位で見える化することが重要です。特に在庫については、SKU別に在庫日数、すなわちDIO(在庫回転日数)に相当する管理指標を把握することで、どの商品がキャッシュを生み、どの商品が資金を固定化しているのかを特定しやすくなります。
2.SKU別の「80対20の法則」で在庫管理にメリハリをつける
次に重要なのが、SKU別で在庫の動きを細かく見ることです。一般にビジネスでは「全商品の20%(主力商品)が、売り上げの80%を占める」という「80対20の法則(パレートの法則)」が成り立ちます。商品の売上貢献度には、最初から大きな偏りがあります。全体の在庫日数が適正に見えても、内訳をバラして見れば、高回転の商品と長期間滞留している商品が混在していることは珍しくありません。全体平均の数字だけを見て「在庫は適正だ」と安心していると、問題を見落とすことになります。
全ての在庫を平等に管理することは不可能です。重要なのは、この偏りを前提として、以下のように管理の「メリハリ」をつけることです。
在庫管理の本質とは、全ての商品を同じように守ることではありません。「守るべき在庫」と「手放すべき在庫」を明確に決めることです。A、B、Cの分類基準は企業ごとに異なりますが、市場の変化に合わせて定期的に見直す必要があります。特に、Cランク品の状況を見える化し続けることは、無駄な在庫を作らないという「組織全体の意識変革」にもつながります。
3. 販売終了条件を決め、在庫廃棄の判断をする
陳腐化在庫を防ぐうえで重要なのが、「出口のルール化」です。多くの企業は、新商品の発売には多大なエネルギーを注ぎます。一方で、「いつ終売するか」「どの条件で追加生産を止めるか」「売れ残った在庫をどう処分するか」は曖昧なことが少なくありません。結果として、売れ行きが鈍化しても追加発注が続く。終売判断が遅れる。倉庫には少量の在庫が長く残る。こうして、滞留在庫が生まれます。本来は、新商品を発売する時点で、出口もセットで設計すべきです。
ここで、筆者が実際に経験したプロジェクトを紹介します。
あるB2Cブランドで、業績不振によりブランドを終了させる判断が下された時のことです。事業終了が決まった瞬間、残されたのは山のような在庫と、それをどう処分するかという難題でした。そこで、全SKUごとに在庫状況に応じた4つの出口シナリオを設計しました。
A:通常ルート:撤退日までに可能な限り高く売り切る
B:二次流通:ブランド価値を毀損(きそん)しない範囲で値引き販売する
C:用途転用:社内利用、サンプル活用、販促物転用などを検討する
D:廃棄:再販売が難しい在庫は速やかに処分する
事業終了の判断後、A〜Dを同時並行で進めました。特にポイントとなったのは、事業終了前から段階的に廃棄を進めた点です。早期に廃棄を進めることで倉庫コストが削減され、二次流通や用途転用の対象SKUも絞られました。結果として、このプロジェクトでは、通常ルートで販売できない在庫から約1億円の現金を回収することに成功しました。
もちろん、廃棄は安易に選ぶべきものではありません。ブランド価値、品質リスク、法規制、サステナビリティの観点を踏まえた出口を検討する必要があります。しかし、それでもキャッシュ化が困難で、保管し続けることでさらにコストが発生する在庫については、廃棄も経営判断の1つです。廃棄とは、過去の誤った需要予測という「負の遺産」を清算し、B/Sを正常化するための前向きな意思決定でもあるのです。
4. S&OPを「在庫の意思決定プロセス」に変える
最後に重要なのが、S&OP(Sales & Operations Planning:販売/供給計画)の高度化です。ここではS&OPを、あくまで在庫を適正に保つための意思決定プロセスとして扱います。S&OPプロセスの設計については、次回あらためて整理します。
部門間の対立を解消し、会社全体で在庫を設計するためには、需給調整を単なる数量合わせで終わらせてはいけません。本来のS&OPは、「いくつ売れるか」「いくつ作るか」を確認するだけの場ではありません。P/L、B/S、キャッシュフローを接続し、在庫に関する経営判断を下す場です。本来のS&OPで議論すべき問いは、次のようなものです。
不確実な時代において、1つの「正解」の計画を作ることは困難です。だからこそ、S&OPでは楽観シナリオ、標準シナリオ、悲観シナリオを用意し、それぞれのケースで売り上げ、在庫、利益、キャッシュがどう動くのかをシミュレーションする必要があります。これにより、担当者は「不安だから多めに持つ」という曖昧な判断から解放されます。会社として、どのリスクを許容し、どのリスクを避けるのかを合意できるからです。
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