ここまでは、中東情勢が石油化学産業に及ぼした影響について解説してきました。
そして今後、石油化学産業が直面する問題は、供給維持だけではありません。「価格転嫁をどこまで進められるか」が大きなテーマになってきます。
前項でも解説したように、足元では非中東産ナフサの調達が進み、「ナフサが手当てできずにプラントが止まる」というリスクは後退しつつあります。
ただし問題の中心は、供給不安から、価格転嫁と需要の見極めへと移ってきています。
現状、原油もナフサも価格が高騰しています。例えば、原油の国際相場は足元で100ドル近辺です。紛争前は60〜70ドル/1バレル程度でしたから、既に4割以上上昇しています。
仮に軍事衝突が完全に終わったとしても、この影響がすぐに消えるわけではありません。
物流は一度乱れると、正常化するまでに時間がかかります。仮にホルムズ海峡が事実上開放されたとしても、まず優先されるのは燃料やエネルギー用途とみられます。石油化学用途の物流が平時と同じペースに戻るには、どうしてもタイムラグが生じます。
さらに、破壊された石油インフラの再建や、放出した備蓄の補充といった要因もあります。そのため、原油価格が紛争前の水準にすぐ戻るとは考えにくい状況です。日本総研は、米イラン間の和平交渉がまとまったとしても、年末まで原油価格は75〜80ドル程度で推移すると見積もっています。
その結果、ナフサクラッカーでは、高い原料や燃料を使いながら低稼働を続ける状態が想定されます。エチレンや、その先につながる誘導品にも、値上げ圧力がしばらく残るとみられます。
実際、フィルムや成形品などさまざまな化学製品で、これまでにない規模の値上げが連鎖的に進んでいます。
ここでまず苦しくなると考えられるのが、中小のメーカーです。原料コストの上昇をすぐに価格へ転嫁できなければ資金繰りが悪化し、サプライチェーンのどこかが息切れするリスクが出てきます。
一方で、価格転嫁が進んだとしても、末端市場では値上げ耐性の限界が意識され始めています。最終製品での無理な値上げが続けば需要は冷え込み、スタグフレーションの様相が強まっていきます。
つまりこれからの石油化学産業では、「モノがあるか」だけでなく、「その価格で市場が耐えられるか」が問われる局面に入っているのです。
以上、今回は中東情勢が日本の石油化学サプライチェーンに及ぼす影響について見てきました。
今回の供給不安で改めて浮き彫りになったのは、石油化学産業のサプライチェーンが決して一枚岩ではないということです。
中東情勢の緊迫化を受けて、まず大本ではナフサ調達そのものが不安定になり、ナフサクラッカーでは減産や稼働率低下を余儀なくされました。その後、ナフサの調達は進みましたが、供給の偏りや流通の目詰まりから、一部の分野では製品の供給が逼迫する場面も生じています。
そして今後は、供給を維持できるかだけでなく、高騰した原料コストをどこまで価格に転嫁できるかも重要な論点になります。価格転嫁が進まなければ中小の加工メーカーの収益や資金繰りを圧迫します。一方で、最終製品の価格が上がり続ければ、需要そのものが冷え込むリスクもあります。
つまり、これから問われるのは「ナフサを確保できるか」だけではなく、その先に広がる複雑なサプライチェーンをどう維持し、コスト上昇をどこまで社会全体で受け止められるか、という点です。
もちろん、これらの問題の根本にあるのは、ナフサ調達環境の悪化ですので、石油化学産業の出発点であるナフサを十分に確保し、コストも含めて、安定的に供給できる体制を整えることが求められます。
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