セパレーターは、水素と酸素(空気)をセル全体に流すための流路の役割を担います。図6に示した通り、流路の基本形は、大きく分けて「(a)平行流路(ストレート型)」と「(b)蛇行流路(サーペンタイン型)」の2種類になり(白い部分が流路を表す)、(1)が最も基本的な形状で、(2)(3)はその発展形の例になります。セパレーターは、両面に流路が形成されており、アノードとカソードに流すガスを分離(セパレート)する役割もあります。
どちらの流路方式でも一長一短があります。基本形で比較すると、平行流路の(1)では、流路長が短くなるため圧力損失が小さく、FCVではカソードの空気導入に必要な動力を低減できます。一方、流路が無い部分(リブ部)の下部へのガス供給は主に拡散に依存するため、高負荷時には十分に行き渡りにくくなります。また、カソードで流路内に生成水が滞留すると、その流路の流量が低下し、他の流れやすい流路へガスが偏るため、局所的に反応ガス不足が生じます。
蛇行流路の(2)では、流路長が長く蛇行しているため圧力損失が大きくなり、カソードでは空気導入の動力が増加してシステム効率が低下します。しかし、入口から出口にかけて大きな圧力差が生じるため、ガスがGDLの内部にも押し込まれるように流れ、リブ下にも行き渡りやすくなります。また、流速が高く圧力勾配も大きいため、流路内の生成水は排出されやすくなります。
どちらの方式が優れているかを一概に決めることは難しく、流路の幅/高さ/間隔、ガスの流量/圧力、セルの形状/寸法に加え、圧力損失とガス供給/水排出性とのバランスを考慮して、最適な流路を設計する必要があります。
図7にはセパレーターの製品例を示しました。(a)はトヨタの第2世代MIRAIに採用されたセパレーターです【参考資料8】。平行流路を基本としながら、流路の一部を狭めて空気の流れ方を工夫することで、空気がGDLの内部にも入り込みやすくしています。その結果、触媒層への酸素供給と水の排出が改善されています【参考資料9】。
セパレーターの材質には、図7に示すように「(a)金属系」と「(b)カーボン(炭素)系」の2種類に大別されます。カーボンセパレーターは、伝導性が高く、特に定置用燃料電池で長年使われてきた実績があります。これに対しFCVのような移動体用途ではコンパクト化や耐振動性が求められるため、薄肉でも強度の高い金属セパレーターが適用されてきました。セパレーターの強度が不十分な場合には発電中に破損し、水素と酸素が混合して安全性の問題が生じます。
金属セパレーターは、プレス成形が可能で、生産性が高い点がメリットです。一方、カーボン系は従来、薄いカーボンプレートを機械加工して流路を形成していたため、生産性が低い点が課題でした。これを改善するために、炭素粉末を樹脂と混合してプレス成形する方法が開発され、現在ではこのような複合材料による製造が主流となっています。
金属セパレーターは、薄肉化してもカーボン系より高い強度を持つ点が大きなメリットですが、表面に不働態層(酸化物層)が形成されやすく、接触抵抗の増加により電子伝導性が低下します。さらに、PEFCのカソードは高電位かつ酸性の腐食環境にあるため、耐食性と導電性を両立させるための表面処理が必要となります。
トヨタの第2世代MIRAIのセパレーターにはチタンが用いられています。ステンレス鋼と比べてコストは高いものの、密度が小さいため軽量化が可能(チタン:約4.5g/cm3、ステンレス:約7.9g/cm3)であり、酸性かつ高電位の環境下でも不働態化により高い耐食性を示します。一方で、不働態皮膜の形成による接触抵抗の増加抑制のために、炭素粒子を含む導電性の薄い表面層(40〜50nm)を形成したチタン材「NCチタン」が開発され、MIRAIに採用されています【参考資料10】。
これに対しホンダの最新型FCVのセパレーターは、低コストであるステンレス鋼を基材として、その表面をチタンでコーティングし、さらにカーボンでコーティングするという構成になっています【参考資料11】。チタン層で耐食性を確保し、さらにカーボン層によって接触抵抗の低減を図っています。
金属系とカーボン系の比較を表1に示しました。表中の△、〇、◎は明確な定量的基準によるものではなく、筆者の視点による相対的な優劣です。なお、どちらの材料系も今も開発が進められており、さらなる性能向上が期待されます。
連載第2回では、燃料電池のセルを構成する各材料について、材質や要求される物性などの基本的事項を説明しました。次回は、燃料電池の出力を制限する要因や、発電特性を左右する重要な材料である触媒の基本的な事項を解説します。
敬愛(けいあい)技術士事務所 所長・技術士(化学部門) 森田敬愛(もりたたかなり)
1991年4月〜1993年6月、ほくさん(現エア・ウォーター)。1993年7月〜2005年3月、ジョンソン・マッセイ・ジャパンにて燃料電池用電極触媒の研究開発に従事。2005年6月〜2014年3月、田中貴金属工業にて燃料電池用電極触媒や電解用電極の開発などに従事。2014年4月に個人事務所「敬愛(けいあい)技術士事務所」を設立し、現在まで水素・燃料電池分野の技術コンサルティングに従事。
[2]FCV・HDV用燃料電池ロードマップ(解説書)、2025年3月、表 1.3.3-1
[3]https://echa.europa.eu/-/echa-supports-pfas-restriction-with-targeted-derogations
[4]https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2026/02/20260209.pdf
[5]https://www.sglcarbon.com/en/markets-solutions/material/sigracet-fuel-cell-components/
[7]https://www.cf-composites.toray/ja/products/electrode/pdf/gdl.pdf
[8]https://www.toyota-boshoku.com/jp/news/11365.html
[9]トヨタ自動車、第2世代燃料電池システムの開発、第56回機械振興賞受賞者業績概要、2022年2月22日
[10]https://www.kobelco.co.jp/r-d/achievement/nctitan.html
[11]https://global.honda/jp/tech/Hydrogen_Fuel_Cell_System_FC/
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