現在、リバースエンジニアリングの現場で最も汎用(はんよう)性が高いのは、「非接触式の青色レーザー」です。
かつて主流だった赤色レーザーに比べ、青色レーザーは波長が短いため、金属の光沢面でも光が散乱しにくいという特徴があります。そのため、これまで苦手とされていた「加工直後の金属部品」でも、反射防止用のスプレーを使わずに測定できるケースが増えています。
また、手に持って計測できる「ハンディータイプ」の進化も著しく、据え置き型に匹敵する精度を持ちながら、大型構造物の周囲に回り込んでスキャンできる機動力によって、設計現場のスピードアップに貢献しています。
一方、形状が複雑で、「内部がどうなっているのか分からない」という課題に対しては、「X線CT」が唯一無二の解決策となります。外側からは見えないリブ構造や、中空部分の肉厚などを非破壊で正確に把握できるため、高度な解析を必要とするリバースエンジニアリングには欠かせない存在となっています。
どの方式を選ぶ場合でも、共通していえるのは「スキャナーは魔法のつえではない」ということです。
最近では、スマートフォンで利用できるものや、数万円から導入可能な低価格モデル、「誰でも簡単にデータ化できる」とうたう製品も増えています。しかし、産業用途となれば話は別です。安価なデバイスでは、ノイズの混入や寸法の歪み、エッジのダレなどが避けられず、設計データとして使い物にならないケースも少なくありません。
また、高価な機種であっても、それぞれ向き不向きがあるので、導入時には用途を見極めた慎重な選定が必要になります。ちなみに、当社でも目的に応じて3種類のスキャナーを使い分けています。
対象物の材質や要求される精度、そして最終的なデータの用途に合わせて、「最適な機材と手法」を見極めることが重要です。この機材選定の目利きこそが、技術者の腕の見せ所であり、リバースエンジニアリングの成否を分けるポイントだといえるでしょう。
「3Dスキャナーを導入すれば、誰でもすぐにリバースエンジニアリングができる」と思われがちですが、現実はそれほど単純ではありません。
例えば、Bambu Labのような3Dプリンタ周辺の技術革新や、スマートフォンのLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)機能などによって、3Dデータの「取得」自体のハードルは下がっています。しかし、産業レベルで通用する「使えるデータ」にするには、以下のような高い壁を乗り越えなければなりません。
ワークの反射や影の影響によって、必ずノイズ(不要なデータ)が発生します。これを見極めて除去するスキルが必要です。
スキャン直後のデータは、「点の集まり(点群)」の状態です。これを三角形の面(ポリゴン)で構成されるメッシュデータへ変換し、穴埋めやスムージングなどの処理を行う必要があります。
これが最も重要です。スキャンデータは、あくまで「現在の形状」を取り込んだものにすぎません。摩耗や歪みなどもそのまま反映されます。そのため、それらを補正し、本来あるべき「設計値」を推測してCAD化するには、機械設計に関する深い知識が不可欠です。
つまり、リバースエンジニアリングは、目の前の現物を単純にデータ化すればよいというものではありません。設計の背景まで考慮したデータ作成を行うことが重要なのです。デジタル化が進む今だからこそ、現場で培われた「泥臭い経験」に基づく知識が、最終的な製品品質を左右するといえるでしょう。
次回お届けする【後編】では、スキャン後の「データ処理」について解説します。ポリゴンデータをどのように編集可能なCADデータへ変換していくのか、そして、その過程で求められる「設計者の判断」について詳しく触れていきます。お楽しみに! (【後編】へ続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。株式会社モールドテック 代表取締役(2代目)。『作りたい』を『作れる』にする設計屋としてデザインと設計を軸に、アイデアや現品に基づくデータ製作から製造手配まで、製品開発全体のディレクションを行っている。文房具好きが高じて立ち上げた町工場参加型プロダクトブランド『factionery』では「第27回 日本文具大賞 機能部門 優秀賞」を受賞している。
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