鉄鋼材料の各種熱処理鉄鋼材料の基礎知識(10)(3/3 ページ)

» 2026年05月20日 07時00分 公開
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鉄鋼材料の特殊な熱処理法

 ステンレス鋼などの特殊鋼の製造においては、「固溶化(こようか)熱処理」や「析出硬化処理」などの特殊な熱処理を行うことで優れた材料特性が引き出されます。

固溶化熱処理

 固溶化熱処理は、析出物を固溶体に溶け込ませる熱処理法です。一部のステンレス鋼に対して用いられる熱処理法であり、クロム炭化物や窒化物などの有害な析出物を基地中に固溶することができます。

 具体的には、析出物が分解して固溶する温度に材料を加熱して保持し、急速冷却を行います。代表的なステンレス鋼であるSUS304では、1010〜1150℃の温度に加熱して保持した後、水冷を行います。すると、析出物が消失した正常なオーステナイト組織が得られます。

図10 固溶化熱処理の概要 図10 固溶化熱処理の概要[クリックで拡大]

 固溶化熱処理されたステンレス鋼は、耐食性が向上します。固溶化熱処理は析出物を固溶させること以外に、圧延や鍛造などによって生じたひずみを除去し、結晶粒を整える効果もあります。

析出硬化処理

 析出硬化処理は、基地に微細な析出物を析出させ、材料を硬化させる熱処理です。主に析出硬化系ステンレス鋼に対して用いられます。

 析出硬化処理を行う場合は、先に固溶化熱処理を行って基地に溶質原子を固溶させます。その後、得たい硬さに応じて適切な温度に加熱、保持し、空冷します。すると、固溶していた合金元素が第二相や金属間化合物として均一に析出し、材料が硬化します。

 析出硬化系ステンレス鋼の実鋼種としては、SUS630とSUS631があります。SUS630は、析出硬化処理によって銅(Cu)リッチ相が析出します。SUS631は、析出硬化処理によってニッケル(Ni)とアルミニウム(Al)の金属間化合物が析出します。

鉄鋼材料の表面を硬化する熱処理法

 ここで紹介する熱処理法は「表面熱処理」であり、鉄鋼材料の表面だけを硬化できる熱処理法です。部品の耐摩耗性や対疲労強度を向上したい場合などに用いられます。その中でも代表的な「高周波焼き入れ」「浸炭(しんたん)処理」「窒化(ちっか)処理」をここで取り上げます。

高周波焼き入れ

 高周波焼き入れは「高周波誘導加熱(IH)」によって材料表面を加熱し、水冷などによって焼き入れする熱処理です。材料の表面のみをマルテンサイト化させて硬化させることが可能です。

 高周波誘導加熱の原理は、材料の周囲に銅製のコイルを巻いて高周波電流を流すと、コイルから交番磁束が発生します。その磁場によって材料表面にうず電流が流れ、抵抗熱が発生ます。その熱によって材料表面が急速に加熱されます。いわゆる「非接触」の材料加熱法となります。

図11 高周波焼き入れの概略図 図11 高周波焼き入れの概略図[クリックで拡大]

 高周波焼き入れの特徴は、全体焼き入れよりも高い表面硬さを得られることです。これは高周波誘導加熱によって瞬時に加熱し、短時間で冷却できるためであり、微細組織化して高い硬さが得られます。表面硬化層の深さを調整できる点も高周波焼き入れの特徴です。

 高周波焼き入れは材料の表面が硬化して耐摩耗性が向上するため、自動車のエンジン部品やトランスミッション部品の他、大型機械のシャフトの摺動部などにも利用されています。

浸炭処理

 浸炭処理は、材料の表層部に炭素を浸透させる熱処理です。鉄鋼材料は炭素量が多いほど硬化しやすいことが知られていますが、浸炭処理を行うと表層部の炭素量が増え、表面が硬化します。

 浸炭処理では、鉄鋼材料を浸炭剤で覆いながら加熱します。浸炭剤は一般的に一酸化炭素などのキャリアガスに、プロパンやブタンなどの炭素源ガスを混ぜたものが用いられます。炭素が固溶するオーステナイト温度域まで加熱して保持すると、化学反応によって浸炭剤の炭素分が材料の表層部に浸透拡散します。

 浸炭によって表層部の炭素が増加したところで水冷を行うと、高炭素のマルテンサイトが得られます。鉄鋼材料の内部は通常の焼き入れとなるため、靭性に富みつつ、硬化した表面をもった鉄鋼材料が得られます。

図12 浸炭処理の概略図 図12 浸炭処理の概略図[クリックで拡大]

 浸炭処理によって表面が硬化した鉄鋼材料は、高い疲労強度や耐摩耗性が確保されます。そのため、浸炭処理は歯車や自動車のCVTプーリーなどで利用されています。

窒化処理

 窒化処理は、材料の表層部に窒素を浸透させる熱処理です。鉄鋼材料は窒素が添加されると、組織内に硬い窒素化合物を生成します。窒化処理はこれを応用した技術であり、表層部に窒素を取り込んで窒素化合物層を作り、表面を硬化させます。

 窒化処理では、鉄鋼材料を窒化剤で覆いながら加熱します。浸炭処理では変態点以上の温度で保持しますが、窒化処理では変態点以下で温度に保持し、材料の表層部に窒素を浸透拡散させます。

 窒素を浸透拡散させる方法には「ガス窒化」や「プラズマ窒化」などの方法があります。ガス窒化では、アンモニアガスを用いて窒素を浸透拡散させます。プラズマ窒化では、減圧下で窒素ガスと水素ガスを導入し、高圧電流を印加します。するとグロー放電が発生し、これによってイオン化された窒素を浸透拡散させます。これらの窒化処理によって材料の表層部に窒素化合物が形成され、材料が硬化します。

図13 窒化処理の概略図 図13 窒化処理の概略図[クリックで拡大]

 窒化処理による硬化深さは、高周波焼き入れや浸炭よりも浅くなります。ただし、最表層部の硬さはもっとも硬くなります。窒化処理は変態を伴わないため、熱処理による寸法変化が少ないという特徴もあります。そのため、浸炭処理では寸法精度を満たせない部品に用いられています。

 なお、表面熱処理には窒素と炭素を同時に浸透拡散させる「軟窒化処理」や「浸炭窒化処理」があります。前者は変態点温度以下で行われる熱処理であり、後者は変態点付近で行う熱処理となります。



 以上、鉄鋼材料の熱処理について説明しました。熱処理の種類や、それによって得られる効果などをご理解いただけたなら幸いです。次回は、特殊鋼について説明します。

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筆者紹介

ひろ/ものづくりの解説書

鉄鋼品メーカーに勤務するものづくりエンジニア。入社以来、大型鉄鋼品の技術開発、品質保証、生産管理等の業務に携わってきた。自身が運営するWebサイト「ものづくりの解説書」では、ものづくり業界の魅力を発信する記事や技術解説記事などを公開している。


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