今なお工業材料の中心的な存在であり、幅広い用途で利用されている「鉄鋼材料」について一から解説する本連載。第10回は、鉄鋼材料の各種熱処理について説明する。
連載第9回では、鉄鋼材料の強化法について紹介しました。強化法には固溶強化、転位強化、析出強化、結晶粒微細化強化などがあり、それらの強化法が鉄鋼材料の高強度化に利用されていることを説明しました。
今回は、鉄鋼材料の性質を調整するに当たって重要な工程である「熱処理」について説明します。鉄鋼材料は強さが求められることは当然ですが、必要に応じて軟らかくしたり、靭性をもたせたりして調整する必要があります。そこで活用されている技術が熱処理であり、鉄鋼材料には必ず何らかの熱処理が施されます。
通常、熱処理は素材メーカーで施されますが、必要に応じてユーザーが施さなければなりません。そのため、ユーザーは熱処理方法などを理解しておくことが必須と言えます。そこで今回は、熱処理にはどのような種類があり、熱処理によってどのような効果が得られるのかなどを説明します。
熱処理とは「材料の性質を変化させるために、材料に加熱と冷却のサイクルを与える処理」のことです。加熱炉や加熱コイルなどを使用して材料を目的の温度になるまで加熱し、冷却する操作を行います。これによって材料の硬さを上げる、靭性を高める、被削性を高めることなどが可能となります。
熱処理の方法は大きく「全体熱処理」と「表面熱処理」に分けられます。全体熱処理は、材料全体に対して熱処理を施す熱処理法です。材料全体について性質を改善したい場合などに用いられます。全ての鉄鋼材料において基本的な熱処理法となります。
一方の表面熱処理は、材料の表層部分だけに熱処理を施す熱処理法です。材料の表面だけを硬くしたい場合などに用いられます。これらの熱処理はどちらか一方だけ施されるということはなく、まず全体熱処理で材料全体を粘り強くした後、表面熱処理で材料の表面を硬くして摩耗に強くするといった使い方がなされます。
熱処理は「材料を熱して冷ます」という単純な処理ですが、「加熱温度」と「冷却速度」は熱処理後に得られる材料の性質に大きく影響します。そのため、熱処理においてはこれらの条件をコントロールすることが非常に重要となります。
鉄鋼材料を熱処理すると、材料内部では「組織の変化」が起こります。材料温度の上昇あるいは低下に伴って結晶構造が変化し、「相変態(そうへんたい)」や「析出(せきしゅつ)」が生じて組織が変化していきます。
ここで、連載第7回で説明した「平衡状態図(へいこうじょうたいず)」を思い出してみてください。平衡状態図は「材料が平衡な状態にあるときの各温度における標準組織」を示したものですが、熱処理中はこの平衡状態図に従った相変態や析出が生じ、組織が変化します。
例えば、炭素濃度が0.45%の鋼の場合、図4に示す平衡状態図より、A3線より上の温度では「オーステナイト組織」となることが分かります。そのままA1線以下の温度まで下がると相変態が起こり、靭性に優れた「フェライト+パーライト組織」となります。これを体現した熱処理法が「焼きなまし」です。
ここで注意しなければならないことは、平衡状態図は「材料が平衡な状態にあるときの反応」を示したものであることです。つまり、材料をゆっくり冷却(=徐冷:じょれい)する熱処理を行った場合は、平衡状態図に従った組織変化が起こります。材料を素早く冷却(=急冷:きゅうれい)する熱処理を行った場合は、平衡状態図に従った組織変化は起こりません。その場合の組織変化は「連続冷却変態線図(CCT)」によって知ることができます。
図5に、とある合金鋼の連続冷却変態線図を示します。横軸は時間で、縦軸は温度を示しています。左上から右下に向かって引かれた青色の曲線は、オーステナイト温度域から室温付近までひたすら冷却したときの冷却挙動を示しています。右側に行くほど、冷却速度が遅いことを示しています。この線図から、冷却中にどのような組織変化が起こるかが冷却速度ごとに分かります。
例えば、(1)の冷却挙動は「急冷」に当たりますが、オーステナイト温度域から急冷すると、約400℃以下で硬い組織であるマルテンサイトに変態することが分かります。冷却速度がやや遅くなると、(2)のようにフェライト変態域やベイナイト変態域を通過するため、マルテンサイトにフェライトとベイナイトが混じった組織となります。マルテンサイト単体の材料よりもやや軟質な材料となります。
それよりも冷却速度が遅くなると、(3)のようにフェライト変態域とパーライト変態域を通過するため、平衡状態図と同じフェライト+パーライト組織となります。鉄鋼材料は延性と靭性に優れた性質となります。
このように、鉄鋼材料を熱処理すると組織の変化が起こります。そして、冷却速度の違いが組織の違いをもたらします。そのため、熱処理では鉄鋼材料の組織を自在に調整でき、鉄鋼材料をさまざまな性質に変えることが可能となります。
以下では、実際に用いられることが多い代表的な熱処理法を紹介します。
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