これに驚かされたのが欧州自動車業界である。2023年の規制改正においては、UFの見直しが2段階で導入される方針が示されており、業界としてもその点については一定の認識を有していた。しかし、第2段階に相当する2027年以降の適用では、PHEVのCO2排出量が、従来のガソリン車やHEVと同等、あるいは車種によってはHEVを上回ると評価される可能性が指摘されたことは、業界にとって想定を超える衝撃をもたらしたと考えられる。
2023年の規制改正時点で、なぜ欧州自動車業界が強く反対できなかったのかを調べると、同年3月に最大の争点であった「2035年における内燃機関車の販売禁止」が最終採択されたことが背景にあったとみられる。この時点で、2027年規制が一段と厳しくなることは予想されていたものの、PHEVに対する規制緩和を提案できる政治的余地は乏しかったのではないだろうか。
さらに、欧州企業平均燃費規制(CAFE規制)への影響も無視できない。連載第61回「欧州委員会は本当にエンジン車禁止を撤回したのか、自動車規制緩和案を読み解く」で述べたように、現行制度では、2025〜2029年に適用される2025年目標として、企業平均排出量を94g/kmと定めている。
基準値を1g/km超過するごとに、販売台数1台当たり95ユーロ(約1万7500円、1ユーロ=184円換算)の罰金が科される仕組みである。2027年以降のUF変更によりPHEVのCO2排出量が増加すれば、これまでPHEVを主たる達成手段としてきた自動車メーカーにとって、目標達成は著しく困難となり、多額の罰金を負わされる可能性が高い。
こうした状況を踏まえ、欧州自動車業界は、2025年規制は既に施行済みであるため変更は困難と認めつつ、2027年規制については一時的な「凍結」を要望している。
そのための対策であろうか。2025年1月から欧州委員会と欧州自動車業界による「欧州自動車産業の将来に関する戦略的対話」が定期的に開催されている。欧州委員会はこれを包括的なEU自動車戦略を策定する長期プロセスと位置付けており、主要テーマとしてPHEVのUF見直し、CO2排出量規制の在り方、国際競争力の強化などを挙げている。
2027年から予定されているUF見直しについては、関連規制が既に法制化されている点を踏まえると、欧州自動車業界が求める一時的な凍結が実現する可能性は低いと考えられる。他方で、何らかの救済措置が検討される余地は残されているかもしれない。しかし、仮に救済措置が導入されたとしても、PHEVに対するCO2排出量評価の厳格化という基本的な方向性が緩和される可能性は低く、今後、PHEVが環境対応車としての位置付けから外れる可能性は十分に想定される。
そもそも、PHEVのCO2排出量公称値は、性善説によって設定されていると考える。つまり、ユーザーが日常的に充電を行い、短距離走行では電動走行を行い、遠距離を走る場合はエンジン主体でも走行可能とする前提である。まさか、常にバッテリーが空の状態で、エンジン走行のみを行うことを開発の主眼に置いていない。
しかし、欧州では企業による車両の電動化推進政策の影響を受け、PHEVを法人向け社用車として採用する企業が多く、PHEVを自発的に購入する個人ユーザーとは異なる利用実態が生じている。このことが、自動車メーカーの想定とは異なる使用パターンを生み出し、結果としてCO2排出量の実態と公称値の乖離を拡大させている。
こうした状況を踏まえると、従来の性善説的前提ではなく、異なる観点からPHEVの在り方を見直し、対策を講ずる必要があるのではないだろうか。この問題を放置すれば、欧州のみならず、米国、中国、日本など他地域にも影響が波及し、PHEVという車両カテゴリーそのものの存在意義が問われる事態となる。今後も、PHEVのCO2排出量評価を巡る国際的な政策動向に注視したい。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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