SDMは、生産技術やデジタル/データ基盤などのソリューションだけではなく、組織の在り方や人材育成、知財や競争戦略などにも影響を及ぼす大きなテーマである。一方、端的なコスト削減効果など、直近のROI(費用対効果)が見えにくいことが懸念されるのは現時点では事実である。
新興国勢がデジタル、ロボットへの大規模な投資と圧倒的なスピードで、競争力をキャッチアップするどころか、先進国を追い越そうとしている現在、日本の製造業においても、インダストリー4.0(第4次産業革命)の大きな潮流であるとの認識の下、SDMは事業全体の競争力、存亡につながる重要な概念である。工場の中身ではなく、製造を中心としたオペレーションの全社戦略の一つとして中長期的に取り組むべきであろう。
SDMへの変革を進めるに当たって、3つの方針を提言したい。
日本の製造業では、モノづくりが競争力の根源であると言われ続けながらも、筆者には「製造」「実行」の立場が低下しているように感じられる。昨今の全社DX(デジタルトランスフォーメーション)などにおいて、製造部門が主役になることはなく、従来通りの改善のための工場予算の中で、現場の頑張りと工夫の中でなんとかデジタル化の潮流に対応してきたのが現状である。
SDMに向けては、製造部門とDX部門が一体となって取り組んでいくべきである。既存の設備/拠点なども数多く残る中で段階的に進めていかなければいけないのは事実であるが、まずは将来のグランドデザインを製造部門がリードして立体的に描きつつ、モノづくりオペレーションの重要課題への対応に順次適用していき、自社にとっての具体的な将来像と拡大に向けた課題を早期に見極めていくことが必要ではないだろうか。
SDAもSDMも、単一の工場内での取り組みとしては投資対効果が見えづらい一方、モノづくりの競争力であるオペレーションに関わる部分をデジタル化し、複数の拠点間で活用することで取り組みがスケールしていく。
個々の製造現場が独自の改善、進化を進め、本社/本部による全体統制が弱い、というのが大半の日本製造業の状態ではないだろうか。これまで優秀な現場層の不断の努力で競争力を向上させてきたが、迎えつつある変曲点で大きな変革を推進していくためには、SDA/SDMによる製造戦略、オペレーション体制を経営戦略、事業戦略の前提とするよう本社(本部)が深く関与し、その推進のための企画、統制、支援の機能とリソースを握る必要がある。
世の中、多くのCxOポジションはあれど、CMFO(Chief ManuFucturing Officer、最高製造責任者)という存在はグローバルでもまれであるが、日本製造業の競争力を高めていく新たなマネジメントモデルとして、確立していくべきではないだろうか。
本稿では、SDA/SDMが今後のモノづくり競争力の前提となる新たな形態として主張してきた。
しかしながら、SDA/SDMはいわば単なる「箱」である。各AI技術を組み合わせても、普通に構築すると自動化以上の競争優位は生めない。
変化への俊敏な対応、先読みや全体感に基づく真に競争力を生み出すためには、自社としての競争力モデルを埋め込んでいくことが必要である。加えて、組織のマネジメントから現場に至るまでが、AIに頼るのではなく、自らデータで分析、仮説を検証したり意思決定できたりする体質であることが重要である。
製造組織の強化というと、ベテランナレッジの形式化ということ意味の生成AI活用に注目されがちである。しかし、組織のナレッジ、競争力とは、データと自分の五感から、現場の変化や違和感に気づき、その発生要因と今後の先読みから組織で取り組むべき課題を設定して活動を推進していく、そのような、モノづくり組織内で共有されている、ものの見方/考え方/振る舞い方ではないだろうか。
それを再確認し、デジタルツールを活用した新たな仕組みを再構築していくことが。来るべきSDM時代に向けてまず取り組むべき事項ではないだろうか。
本連載では、ソフトウェアデファインドの潮流を背景に、製造業におけるオペレーションと競争力モデルの再構築の方向性について考察してきた。これらの視点が、読者各位における将来のモノづくり戦略の検討と実践の一助となれば幸いである。
芳賀 圭吾
合同会社デロイト トーマツ パートナー
重工業、産業機械、建機/農機製造業を中心に、20年以上にわたって製造業向けコンサルティングに従事。事業戦略、ビジネスモデル策定から、設計開発・営業・サプライチェーン・サービスのオペレーション変革実行に至るまで幅広く支援している。
近年はデジタルを活用した事業構造変革に注力。スマートファクトリーイニシアチブのリードも務める。
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