ソフトウェアデファインドマニュファクチャリングは製造基盤として何を生むのか製造業ソフトウェアデファインドの潮流(3)(2/3 ページ)

» 2026年03月02日 07時00分 公開

SDM実現に向けて必要な技術要素とは何か

 SDMを実現するためには、従来の制御や設備だけでなく、工場全体やモノづくりを取り巻くさまざまな要素を包括的にモデル化し、ソフトウェア上で統合的に扱えるようにすることが不可欠である。

 SDMの構成要素は、単なる工程自動化の枠を超え、設備/制御システム/人/製品/データの全領域をデジタル化し、AI(人工知能)がそれらを相互に変換/調整する新たなモノづくり基盤の構築を意味する。

 まず、SDMでは設備や制御システムのモデル化にとどまらず、工場運営に関わる要素全て――生産ラインの稼働、物流、人の動き、品質管理、保守活動、さらには組織内の意思決定やナレッジの流れ――をソフトウェア上でモデル(デジタルツイン)として構築し、多様な要素の間をデータおよびAIでつないでいくことが基本的な構築の考え方になる。

 その中で大きな役割を果たすのが、以下の3つであると筆者は考える。

SDMのアーキテクチャ。フィジカルAIとともにオペレーション、ナレッジ創出でAIを活用する SDMのアーキテクチャ。フィジカルAIとともにオペレーション、ナレッジ創出でAIを活用する[クリックで拡大]

フィジカルAIによる設備/機器制御の知能化と実績データからのモデル精度向上

 フィジカルAIとは、ロボットや機械が、現実世界の物理法則を理解し、カメラやセンサーを通じて取得した現実の情報に基づいて自ら判断して、自律制御を行うための一連のAI技術である。

 ロボットに位置座標や動作パスなどの詳細なティーチングを行わなくても、対象や行動結果、要件を与えることで制御対象を動作させるプログラムやパラメータを調整して動作させるとともに、現場データと比較して差異を検知、最適な制御や修正をリアルタイムに実行する。

 加えて、「実績とプログラムの差異」を常時モニタリングし、想定と実際のズレをAIが自ら認識し、即座に制御パラメータや稼働条件を調整できる仕組みを、設備や機器の「モデル」に対しても適用させることで、より精度の高いシミュレーションモデルが構築できる。

 自動車の自動運転プログラム開発をデジタル空間でシミュレーションしながら開発するように、実際の動作はさせずとも、生成AIを活用して膨大なケースを生成しシミュレーションをオフラインで行い、モデルと制御の精度を高めることもできる。

 フィジカルAIにより、ロボットや機械は、あらかじめ定められた条件下で動作を確実に実現するという存在から、現場で発生する予期しない事象に対しても自律的に制御し期待された結果を返す存在となる。製造現場の複雑性、不確実性を吸収することになり、デジタル層からの指示に対する結果フィードバックの精度を高め、従来のメタバースやデジタルツインではカバーしきれなかった、シミュレーションや意思決定に使える「製造現場のモデル化」を進めることとなる。

 このことが、デジタル上で意思決定された結果を現場に適用できるという、「ソフトウェアデファインド」の核心を実現する重要要素であると筆者は考える。

生成AIやエージェンティックAIによる業務間での連携や調整の実行

 フィジカルAIによる現場機器のモデル化と、人からの要求や指示をAIがコマンドやプログラム、データに変換し、エージェンティックAI同士が対話/調整することで、従来は人の判断や現場の経験に頼っていた調整作業も自律的に最適化を進めることが可能になる。

 例えば、複数の生産ラインや設備が同時に最適な稼働状態を保つために、業務領域別のエージェンティックAI同士が工場全体のリソース配分や稼働順序をリアルタイムで調整する、といった具合である。

生成AIとナレッジグラフによる競争力モデルの構築と継続的進化

 現場作業者や管理者は抽象度の高い意思決定や課題設定に集中できるようになり、現場の改善活動やイノベーションのサイクルが加速する。

 例えば、日本の製造業の競争力は、弛まない課題設定と改善(変化点管理となぜなぜ分析)横展開による効果のN倍全体感や先読みでの高度な課題設定により実現されてきたと筆者は考えるが、問題解決支援の生成AIやナレッジグラフによるナレッジ蓄積の仕組みを、AIとの連携の中で人/組織が活用することで、過去に蓄積した資料のデジタル化だけではなく、新たな組織ナレッジの生成/共有/蓄積/発展という一連の活動がデジタル上で実行され、競争力モデルの進化に生かされていくのではないだろうか。


 このように、SDMは製造業の中にある、拠点や組織、設備/機器、業務アプリケーションやデータベースなどの物理的な制約を外してマネジメント、ナレッジ、オペレーションという競争力要素をデジタル上で一体化し、現場事実とデジタルモデル双方の観察と仮説検証を基盤に、競争力を高め全体最適を推進する次世代モノづくりの姿である。

 これはAI任せのモノづくりを目指すというのではなく、製造を構成する多様な要素間の連携にAIを使いこなすことで、従来属人的な活動に依存してきた競争力を創出するアーキテクチャをシンプルに描き、製造現場の自律性/柔軟性を再構築する取り組みである。人とAI、設備が協調しながら、モノづくり全体をデジタルでマネージし、知識創造とイノベーションを加速させる体制がSDMの目指す方向性とある。

 今後、グローバル規模での生産ネットワーク最適化や、AI、データ技術を活用した自律的な現場運用が進展することで、SDMは製造業のイノベーションと差別化の中心的な役割を担うことになる。その上で、人/組織は、これまでにない新たな気付きを得て、非連続なイノベーションを生み出していくことが求められると筆者は考える。

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