SHIGAという名称は、当初は製品名ではなくプロジェクトのコードネームであり、工場を起点に新しい価値を生み出すという意思が込められていた。SHIGAは、製品と場づくりを同時に進めるという企画思想のもとで誕生したプロダクトである。
SIGAの企画/設計、デザインを共同担当した岡本洋子氏(商品開発本部 開発企画室)、横山剛士氏(生産本部 第1開発設計部 チェア第2開発設計室 チームリーダー)を交えて、柴田氏とトークセッションが行われた。
横山氏は、SHIGAの開発で最も難しかった点として「メカを根本から作り直したこと」を挙げた。メカとは、椅子の昇降や背・座の連動といった動きを実現する内部構造であり、座り心地だけでなく安全性にも直結する要素である。SHIGAでは、このメカを新たに設計する必要があったが、柴田氏から提示されたデザインは、従来のメカを前提とした構造では成立しなかったという。
「シンプルな椅子の裏側に、従来の大きなメカが付いてしまうと、一気に造形が崩れてしまう。機能を成立させながら、どこまでメカを小さくできるかが最大の課題だった」と横山氏は語る。
柴田氏は、機能を削ることではなく、必要な機能を見極めることが重要だったと振り返る。「フルスペックにすればいいわけではない。調査の結果、ロッキング角度は20度ではなく15度で十分だと判断した。そうすることで、空間になじむ佇まいと座り心地のバランスが取れた」。操作系も必要最低限に絞り込み、直感的に扱える構成としたという。
初期段階で「下に突起が出るのはだめだ」と柴田さんから指摘され、横山氏は正直行き詰まったと明かす。しかし、実際にシンクロロッキングあり・なしの椅子を座り比べてもらい、「これだけ座り心地が変わるならやろう」と柴田氏が判断した場面が転機になったそうだ。「デザインだけを見るのではなく、商品として本当に良いものを見てくれた。その姿勢に救われた」と語る。
苦労は背もたれの分割構造にも及んだ。岡本氏は「背もたれを分割したいと言われた時、『できません』とは言いたくなかった」という。
横山氏は、最初は既存モデルの背もたれを切断して試作するなど、手探りで検証を重ねたという。分割ラインを美しく真っすぐ出そうとすると内部に硬い部材が必要になるが、それでは背中に違和感が出てしまう。「見た目のライン」と「人が触れる感触」の両立は、設計者として最も悩んだ点だったそうだ。
横山氏は「一見シンプルに見えるが、実は誰もやってこなかったからこそ難しかった」と語る。
SHIGAの開発における最大の技術的挑戦の1つが、座面下メカの大幅な小型化であった。ミニマムな外観を成立させるため、従来モデルで前提とされてきた「大きく厚みのあるメカ構成」を根本から見直す必要があった。
設計チームはまず、薄型化のためにロッキング機構の構成そのものを再設計した。従来は太く大きなバネ1本で構成されていた機構を、SHIGAではバネを2本に分けて横並びに配置する構成へと変更している。幅方向の余地を活用することで、厚みを抑える狙いだ。ただし、バネを2本にすると個体差による「ばらつき」が生じやすく、左右でロッキングフィーリングが異なるリスクがある。この課題に対し、設計担当者は板金パーツで2本のバネを同時に引き、均等に圧縮する構造を採用することで、動作の安定性を確保した
さらに苦労したのが、限られたスペースへの機構の収まりである。ロッキングや背もたれ固定といった最低限必要な機能を維持しながら、操作系を含めたユニット全体を極限まで薄くする必要があった。そこで設計チームは、唯一空間に余裕のあった座面下部の「底側スペース」へ機構を逃がすという発想にたどり着く。ロック機構の一部を下方向に埋め込むことで、高さ制限をクリアし、外観からは見えない位置に複雑な構造を隠した。
この結果、SHIGAのメカ厚は、同社の既存モデル「F」を100とした場合、約60%まで薄型化することに成功している。数値だけ見れば単純な縮小に見えるが、実際には構造解析と試作を何度も繰り返しながら成立させた成果であり、設計担当者は「完成したときは胸がいっぱいだった」と振り返る。
メカの小型化は単なる省スペース化ではなく、デザイン、操作性、量産性を同時に成立させるための総合的な設計判断の積み重ねだった。SHIGAの静かな佇まいの裏側には、こうした見えない工夫と試行錯誤が凝縮されている。
工場をひらき、内外の人と知見が交わる場へ進化させる。ITOKI DESIGN HOUSE SHIGAの取り組みは、工場を単なる生産拠点ではなく、開発が生まれる拠点として再定義する試みである。そしてSHIGAは、その思想をプロダクトとして可視化した存在といえる。デザインと機能、開発と製造、内と外。その境界を越えていくプロセスこそが、これからのモノづくりに求められる価値創出の形なのかもしれない。
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