工場オフィスの刷新と並行して進められていたのが、新ワークチェアのSHIGAの開発である。滋賀工場を単なる製造拠点にとどめず、開発と共創が生まれる場へ進化させる。その思想は、SHIGAの企画段階から強く反映されていた。
湊氏は、SHIGAの企画は、働き方の多様化を起点として立ち上がったと語った。コロナ禍にテクノロジーが進展したことで、場所を選ばず働けるようになった現在、オフィスに行かなくても仕事ができるようになりつつある。
しかし、経営者としては社員に出社してほしい。だから「行きたくなるオフィス」を作る必要が生じる。そのため人が集まる空間には、居心地や質の高さが強く求められるようになったと、湊氏は言う。
こうした変化を背景に、空間に溶け込むミニマムな佇まいと、長時間の着座を支えるエルゴノミクスを両立したワークチェアの必要性を感じたという。
こうした企画思想を、具体的な形として落とし込む役割を担ったのが、プロダクトデザイナーの柴田文江氏である。イトーキは2019年に柴田氏と共同開発した「VERTEBRA 03」でこの流れを捉えたが、一方で「もう少し長く働けるチェアが欲しい」という声も増えてきた。
そこで、空間に合わせやすいデザイン要素に、長時間の着座でも快適な要素を合わせた企画として立ち上がったのがSHIGAである。企画担当者が開発時の合言葉として掲げたのは「居心地と座り心地を両立するワークチェア」。見た目だけではなく、気持ちの良い動きや操作感といった“使い心地”にもこだわる方針が早い段階で共有された。
SHIGAの特徴は、ミニマムな佇まいを成立させるための「引き算」が、機能面の妥協ではなく、構造の工夫によって実現されている点にある。座面下に収められたメカボックスは極薄で、従来のタスクチェアと比べて薄型化を徹底した。多機能化によって大型化しがちなメカボックスだが、必要な機能に絞り込み、ミニマムなデザインとエルゴノミクスを両立させた。
ロッキング機構には、イトーキで多く採用されている「アンクルムーブ・シンクロロッキング」を採用した。くるぶしを支点に背と座が連動して傾き、後傾時に座全体が後方下にスライドすることで、自然な姿勢変化をしなやかに支える。
一般的に背の最大傾斜角度が20度程度の製品が多いが、SHIGAでは「最大15度で十分」と割り切った。空間に置いた時の軽やかさと、日常的に使われる範囲での快適性を優先した判断である。
さらに、操作性にも思想が表れている。オープンなオフィスでは不特定多数が座るため、初めて見た人でも直感的に扱えることが重要となる。SHIGAでは操作レバーを1本化し、昇降や背固定をシンプルに行える構造を採用した。使う人を選ばない設計が、結果として空間へのなじみやすさにもつながる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Factory Automationの記事ランキング
コーナーリンク