　東京都立産業技術研究センター（都産技研）は2025年12月2日、北里大学と共同で、ニホンウナギの筋肉組織から、風味や食感に不可欠となる脂肪を生産できる細胞株を樹立したと発表した。得られた細胞株は自然不死化細胞株で、ウイルスや薬剤を使わずに連続培養できる。同細胞株が作る脂質の組成は、市販の養殖ウナギに近いことも確認した。

脂肪滴（赤色）をためた細胞出所：東京都立産業技術研究センター

　研究では、ニホンウナギ稚魚の筋肉組織から細胞を分離し、長期の培養過程を経て、JE-KRT224、JE-EK9、JE-F1140の3種類の脂肪前駆細胞株を樹立した。120回以上の細胞分裂を経ても安定した増殖能力を維持し、人為的な遺伝子操作なしに無限増殖能を獲得した自然不死化細胞株であることが示された。

　これらの細胞は、分化誘導により成熟した脂肪細胞へ変化し、大量の脂肪滴を細胞内に蓄積した。オレイン酸を添加した培養条件では、細胞の増殖を保ちながら効率的に脂質を生産できた。脂肪酸組成は一価不飽和脂肪酸が最も多く、養殖ウナギ肉の組成に近い特性を示した。

脂肪に蓄積された脂質の脂肪酸組成［クリックで拡大］出所：東京都立産業技術研究センター

　ニホンウナギは絶滅危惧種に指定されており、市場では天然稚魚を捕獲する養殖に依存している。そのため、資源枯渇や価格上昇が課題となっている。

　今回の成果は、既に樹立済みの筋肉細胞株と組み合わせた細胞性ウナギ肉の開発につながる基盤技術だ。研究チームは今後、筋肉細胞と脂肪細胞を組み合わせた立体的な組織構築や、おいしさや風味に重要な脂の乗り具合の最適化、品質の均一化など培養ならではの食品開発に取り組む。

　また、都産技研は企業との共同研究を進め、社会実装と製品化を目指すとしている。同技術は他の高級魚や絶滅危惧種にも応用可能で、細胞性魚肉の新たな展開が期待される。

⇒その他の「医療技術ニュース」の記事はこちら

がんを兵糧攻めで克服、「透明マント」技術で半減期を約10倍に
ナノ医療イノベーションセンターらは、体内で100時間以上安定して働く新型ナノマシンを開発した。がん細胞の栄養を枯渇させる「兵糧攻め療法」で、膵がんと乳がんに高い治療効果を示した。
「ナノイー」は運転中の集中力や注意力を向上する　パナソニックが検証
パナソニックは、同社の帯電微粒子水「ナノイー」技術がドライバーに与える影響を科学的に検証し、運転中の集中力向上に貢献する可能性があると発表した。
オムロンの血圧計はどう作られる？　自動化と熟練技能が共存する生産ラインへ
オムロンヘルスケアは、血圧計生産のマザー工場である松阪工場の見学ツアーを開催した。高速自動化技術と熟練の技能が融合する製造現場を公開。世界同一品質を支える「仕組み」作りをレポートする。
医療AIはクラウドベースへ、オリンパスが消化器系内視鏡でプラットフォームを構築
消化器系内視鏡で世界トップシェアのオリンパスがAI技術の導入を積極的に進めている。2023年6月にオリンパス傘下に加わったOdin Vision CEO兼ディレクターのピーター・マウントニー氏に、同社の技術やオリンパスグループが目指す消化器系内視鏡向けAI技術の開発の方向性などについて聞いた。
気化熱で汗を蒸散、暑い日のベタつきを解消する新アプローチ
花王は、汗を肌上で素早く広げて乾かす新たな汗蒸散技術を開発した。汗の蒸散による放熱作用を妨げず、不快なベタつきを軽減することで、暑熱環境下での快適性向上が期待される。
COCOAはなぜ終わったのか？　接触確認アプリが続かなかった5要因を解明
芝浦工業大学と北見工業大学は、世界158の国と地域における184のデジタル接触確認アプリの運用状況を調査し、約46％が終了している実態を明らかにした。COCOA終了も含め、運用終結の理由を体系化した。