Rapidus エンジニアリングセンター設計技術統括部ディレクターの鶴崎宏亀氏は「一般的な半導体製造の評価指標は、処理性能(Performance)、電力(Power)、面積(Area)から成るPPAが基準になっている。2nmプロセスで製造することになる大規模な半導体チップであるAIアクセラレーターやCPUの場合、PPAだけでなく、コスト(Cost)とタイムトゥマーケット(Time to Market)を含めたPPACTMが重要になっている」と述べる。
ただし、Rapidusはファウンドリーであり半導体回路設計は顧客が行うことになる。同社はその半導体回路設計を短期間で完了できるように、基準となる参照設計フローと併せて、オプションの形でRaadsのツール群を提供する。これらのツール群を活用することで設計期間の50%削減と、それによる設計コストの30%削減が可能になることを想定している。
Raadsは、半導体の回路設計プロセスとRapidusの参照設計フローに対応する3つの領域で7つのツールを用意している。
論理設計から物理設計の出力に対応する上位設計のプロセスに対応するのが「Raads Generator」と「Raads Predictor」である。Raads Generatorは、LLM(大規模言語モデル)ベースのEDAツールであり、設計者が半導体の仕様を入力するとRapidusの2nmプロセスに最適化されたRTL設計データを出力する。一方、Raads Predictorは、RTLのデバッグおよび物理設計/配置配線の最適化ツールでPPA予測を短期間で実現できる。
なお、Raads GeneratorとRaads Predictorはオープンソースソフトウェアとして公開する予定であり、同じくオープンソースソフトウェアのEDAツール「OpenROAD」と組み合わせれば、Rapidusの2nmプロセスに合わせた半導体回路設計の最適化を無償で行えるようになる。「Raads Predictorは論理設計から自動で物理設計を出力する機能を備えているので、物理設計に関する経験がなくても半導体回路設計を試せるものになっている。アカデミアやスタートアップにとってファウンドリー利用のハードルは高いが、まずはこの無償のツールで半導体回路設計を簡単に試せる環境を整備して、そのハードルを下げたいと考えた」(石丸氏)という。
より具体的なレイアウトと関わる領域では、設計期間の短縮と歩留まり向上に分けてツールを提供する。設計期間の短縮ではML(機械学習)/AIを活用したツールである「Raads Manager」「Raads Compiler」「Raads Optimizer」、歩留まり向上ではLLMを活用し設計者の品質保証や支援を行うとともに設計課題に対する解決策を導出する「Raads Navigator」「Raads Indicator」を提供する。これらは、ケイデンス(Cadence Design Systems)やシノプシス(Synopsys)のEDAツールのプラグインとなる。
なお、設計期間の短縮に用いるML/AIモデルについては、Rapidusが提供するモデルを基に顧客の設計の手法やノウハウなどを追加学習した新たなML/AIモデルを、Rapidusの顧客全員がアクセスできるRUMSコミュニティーで共有するコンセプトを検討している。
また、将来的にはRaads GeneratorとRaads Predictor、Raads Compilerを組み合わせた「Raads SynthCast System」を構築することで、ターゲットとするPPAに合わせて半導体回路設計の最適化ループを回して、手戻りすることなくフォトマスク製造のためのテープアウトまで進めることも想定している。
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