伊東氏は「AIを効果的に使うには、適切なデータを用いた学習が必要だ。例えば、センサーデータ、操作履歴、設備データ、位置データ、インターネット上のオープンデータなどをLLMに取り込むことで、このLLMを用いて、運転/設備の監視、運転の最適化、設備保全の効率化を図れる」と述べた。
その上で、化学会社AとBの生成AI活用事例や、化学会社Cの機械学習(特に強化学習)および深層学習の活用事例に触れた。
化学会社Aでは、現場でMicrosoftのAIアシスタント「Copilot」などの生成AIを活用することで、保守業務の効率化を図っている。「同社では、ドローンで撮影した設備や施設の画像などのデータをCopilotに学習させ、それらのデータに基づいたプロンプトを作成して、『〇〇工程において、危険なポイントはどこか』といった問いに答えられる生成AIを開発し、全社的に導入している。これにより、設備や施設の保守で必要な情報を入手しやすい環境を構築している」(伊東氏)。
化学会社Bは、蓄積した運転/保守のデータが紙媒体で共有されていた他、属人的に管理されていたため、データではなく「人に依存した運転/保守」となっていた。「そこで同社は、蓄積した運転/保守のデータを基に情報管理プラットフォームを構築した。このプラットフォームは、装置管理番号(TAG)と対象装置の運転/保守業務に必要な情報がひも付いている。そのため、各装置の運転/保守業務の効率化を図れる」(伊東氏)。
併せて、工場や装置、設備といったアセットの運転/保守を、AIにより効率化できる市販のツールとして、Hexagonのアセットパフォーマンス管理ソフトウェア「HxGN APM」に言及した。
HxGN APMは、設備の稼働/故障履歴からリスクが高い設備を特定し、センサーで取得したデータから、対象設備の故障リスクを評価し定量化し、設備の健全性を監視できる。
対象設備の保全や運用、故障防止の戦略構築も行える。設備の運用状況の変化に合わせて、保全の戦略を継続的に評価し、最適化する機能も備えている。対象設備の運転データやセンサーから得られた情報に基づく状態監視保全にも対応する。これらのデータを、機械学習をはじめとするAIで分析し、将来の故障を予測する予知保全も可能だ。
「AIによりメンテナンス履歴の評価が行えることに加えて、物理的な設備や装置などをデジタル空間上でリアルタイムのデータと連携して再現する『アセットツイン』を迅速に開発できる」(伊東氏)
化学会社Cでは、シミュレーションソフトで再現したプラントのデジタルモデルと実プラントの挙動に違いがあったため、これらのデータを学習した機械学習モデルを利用すると、プラントの制御性能が低下する問題「Simulation to Reality Gap(シミュレーションと実機の応答ギャップ)」があった。
そこで同社は制御タスクを3分割して、「状態推定エージェント」「運転計画エージェント」「外乱対応エージェント」といった強化学習で各タスクに対応した。
具体的には、状態推定エージェントは状態推定器(状態オブザーバー)を強化学習で実現する技術で、観測できないプラントの内部を精密に推定する。伊東氏は「化学会社Cは状態推定エージェントを使用することで、豪雨を模した放熱量の急増を検知して、実験用蒸留塔の内部状態を精密に推定できた」と述べた。
運転計画エージェントは、プラント運転におけるさまざまな目標を学習させておくことで、運転員から与えられた目標状態を実現するための最適な手順を作る。外乱対応エージェントは、事前に多様な外乱を与えて学習させておくことにより、予期せぬ外乱に応じて運転手順をオンラインで修正できる。これらのエージェントを活用することで、若手の社員などでもベテラン社員と同等のプラントの運転操作が行えるようになったという。
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