「使い方や価値を伝える活動」については、社内コミュニティーの育成に力を入れている。
その1つとして、AI活用を社内に根付かせるため、毎月1回の「ダイハツAIキャンプ」を開催している。これは、DXやAIに関する情報やアイデアを共有し、ナレッジの横展開を目指す社内コミュニティーで、2022年3月から毎月開催しているという。毎回200人以上が参加し、30回までの累計参加者数は6500人を超えたという。その他、外部のツールベンダーなどを招いた実践的な研修も月に6〜8回開催している。
また、個別コミュニティーなどについても、AIやBI、データ分析などさまざまなテーマで実施しており、自走できる組織運営を推進している。これらの原動力とするために、社内のAIコンペなども通算20回以上実施し、AIの新たな使い方を生み出す発想力を培うとともに、あらゆる現場にAI活用をベースで考える土壌が行き渡るようにしている。
太古氏は「学びの楽しさと競争の仕掛け作りをしながら、実務スキルに橋渡しできるようにすることがポイントだ。そのために、トータルとしての活動の見た目は大きくしつつ、個々のコミュニティーは“自走できる規模感”を維持している。それぞれの現場にとって意味があるものを得られ、成果を生むための活動を徹底する。今では工場の現場担当者が進んでPythonなどを操るようになっている」と語る。
さらに、「外部のコミュニティーをそのままマネするのではなく、自社に合った形で設計することが必要だ。コミュニティー活動を進めていくと各部門で似たようなものが生まれてしまうが、重複をできるだけ回避し、事例の相互活用などでうまくつないでいくことも重要だ」(太古氏)と活発なコミュニティー運営のためのポイントについても語っている。
現在では、これらのさまざまな活動が数多く進む状況になっているが、最初から全面的に活動が順調だったわけではない。特に自動車業界では、高い品質を効率的に維持するために工程ごとの縦割り意識が強い傾向があるため、一度に全社で展開することが難しい。そのため太古氏は「“小さな成功”を積み上げることが重要だ」と訴える。
「DXを推進する中ではグランドデザインを最初に描く方法などもあるが、われわれは各部門で“小さな成功”を量産し、それを後でつなぐという考え方で取り組んでいる。どこかで成功している部門が出れば、他部門でも『マネしたい』という動きも出てくる。また、ボトムアップでこうした“火種”が多く生み出していけると経営層にも注目してもらえる。ボトムアップの動きを経営方針などに組み込みトップダウンでの取り組みを重ねて全社で推進する仕組みに高めていく」(太古氏)
実際にこれらの考え方の下、草の根活動が徐々に広がり、2020年10月には東京LABOデータサイエンスグループが設立され、2022年1月にはDX推進室が設置された。2023年にはダイハツ工業初のデジタル活用方針「DXビジョンハウス」なども発表され、太古氏が示したようなボトムアップとトップダウンの両輪でデジタル活用を進めていくことが明示されている。全社的な取り組みについては、取締役会直下で、コーポレート統括本部長が議長となり、各本部長が委員として参加する「DX委員会」が包括的に取りまとめる形となっている。
これらに伴い、全社でのDX人材の育成も進んでいる。DXビジョンハウスの発表時には、AIやBIツールの活用やアプリ開発ができるDX人材を2025年度までに1000人育成する目標が示されたが、現在では900人以上に達しているという。「2025年度末までには計画通り1000人は達成できる見込みだ」(太古氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク
よく読まれている編集記者コラム