ダイハツ工業は、データやAIを活用した事例を“草の根”活動から次々と生み出している。多くの製造業がDXの成果を思うように示せない中、ダイハツ工業ではなぜこうした成果を生み出し続けているのだろうか。3人の非公認組織から開始した活動を全社に広げた仕掛け人であるダイハツ工業 DX推進室デジタル変革グループ長(兼)東京 LABO シニアデータサイエンティストの太古無限氏に話を聞いた。
あらゆる企業でAI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進められているが、その中で期待以上の成果を残せているところは少ない。特に製造業では、設計や製造など、モノづくりの本質的な業務において、具体的な成果を生み出すのが難しいといわれている。MONOist主催イベントの来場者アンケートで見ても、工場のDXの進捗について「成果が出ている」とした回答は23.4%だったのに対し、「期待ほどの成果は出ていない」とした回答は36.2%となり、成果を十分得られていない回答者が多い結果となった。まだまだ成果を出すまでのプロセスに課題を抱えていることが分かる。
その中で、ダイハツ工業では、DX推進部門が各現場を回り“DXの芽”を支援する“草の根”活動を推進し、さらに、それを広げるための仕掛け作りにより、社内でのAI活用事例を次々に生み出している。その推進の中心を担っているのが、ダイハツ工業 DX推進室デジタル変革グループ長(兼)東京 LABO シニアデータサイエンティストの太古無限氏だ。ダイハツ工業でいかにAIの活用を広げてきたのか、今後どのような方向性を考えているのかについて聞いた。
ダイハツ工業で太古氏がAIやDXへの取り組みに本格的に取り組み始めたのは2017年のことだ。「もともとはエンジンの組み込みエンジニアだったが、当時はMBA(経営学修士)を取得した直後で、MBAのメンバーの中でも話題になっていたAIの活用について危機感を覚えた。そこで業務外で機械学習やPythonについての非公式な勉強会を作り、何か面白いことができないかという模索を始めた。最初は有志3人でのスタートだった」と太古氏は当時を振り返る。
その勉強会を実施する中で、ダイハツ工業の社内でも試してみたら面白そうな仕組みがいくつか生まれてきたという。そこで「勉強会の中で生まれた成果を、展開することを考えた。より多くの現場で使用してもらうことでAI活用がビジネス的な価値を生むようになる」(太古氏)。
しかし、ダイハツ工業のさまざまな現場で、AIやIoT(モノのインターネット)、データ活用に対する知見を持つ人は、非常に少なかった。当時作ったツールは、ある程度、機械学習やデータ活用、例えばPythonなどの知識がなければ扱えないもので、展開するにはこれらが大きな障壁となっていた。そこで「現場の誰もが簡単にAIを活用できる環境を整えることが必要だと考えた」(太古氏)。
これらの状況から太古氏は「誰でも簡単に活用できる仕組みを整える」と共に、関心を持ってくれた部門や人に「使い方や価値を伝える活動」の2点に重点的に取り組み始めたという。「最終的な目標は、誰もが使える道具とすることだ。価値を広げるためには、技術者や非技術者に関係なく、誰でも簡単に使えるようにしなければならない。その障壁になっているものを丁寧に解決していく。こういう思いは当初から今まで変わっていない」と太古氏は語る。
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