LOOKOUTは100ms未満の低遅延で、CANやIEC 61162/NMEA 2000(ともに舶用機器でデータ通信プロトコルの標準規格として長年使用されている)を介して自動操船装置や上位の自律運航システムと接続する。カメラはLOOKOUT純正に限らず、AXIS、FLIR、IRIS、SIONYXなど市販製品との互換性を確保している。既設艤装の再利用で初期コストを抑えつつ、判断根拠を含むログをS-VDR相当の記録に残せる点も、運用と監査の現実に合わせた設計といえる。
航行支援に加え、落水や危険位置の検知を行う「CrewSafe」も用意している。船体周囲に仮想安全ゾーンを設定し、このゾーンで異常を探知すると即時アラートを発する。回収作業用の落水位置マーキングや事後解析のためのビデオ保全にも対応する。複数カメラで全周をカバーし、低誤検知率で船内警報系との統合を前提に設計している。
LOOKOUTは、オブジェクトID、トラック軌跡、タイプ識別、信頼度(Confidence)、相対方位、距離、速度ベクトル(検出可能時)、脅威ランクといった属性を標準化JSONで出力する。データの蓄積によってセーリングクルーザー(日本でいうところのヨット)はConfidence96%、流木は近距離で精度上昇といった粒度で、自動操船もしくは自律運航の入力として利用できるのが特徴だ。“警告を画面に出して終わり”ではなく、運航の意思決定へデータを渡すというコンセプトの具現化ともいえるだろう。
説明会では、導入に向けた手順を重視している点も訴求している。まずはパッシブ記録+アラートで誤警報率/見逃し率/CPA分布/当直者負荷における数値目標を示した上で、限定的な自動化への導入を安全委員会で提案することで、法的な要求水準のクリアを進めてきた。
なお、日本における販売はボートメーカーへのOEM、ライセンス、さらには舶用機器商社/パートナー経由を想定する。参考価格としては、カメラ+演算装置(ブレイン)で約150万円(設置費別)が示された。国内はDMP(デジタルメディアプロフェッショナル)が技術サポートパートナーとなる予定だ。販売数目標は3年間で5000ユニット規模としている。航法データを集約するクラウドに関してもアップデートなどの基本用途を無償としつつ、常時情報共有など高度機能は有償の可能性があると述べている。
LOOKOUTにおける自動操船、自律運航に関して大きな特徴となるのが、COLREGという法的規制を順守できる“行動規則”が前提にある点だ。自動操船や自律運航では、自動運転で言うところの「交通法規順守」を海上法規に置き換えて、避航航路の生成そのものに織り込む必要がある。また、波に隠れる小目標、AISの欠測や遅延、衛星経由のデータレイテンシなど、センサーや通信の“不確かさ”は海上でより大きくなる可能性が高い。
LOOKOUTがセンサー融合の重みを条件で自動シフトし、外部情報と船上センサーの相互検証を前提にしているのは、その差分に対する対処ともいえる。さらに、ログで説明責任を持つUI、100ms級の低遅延出力、標準I/Fでの接続性は、すでに車載で確立した方法を海に移植した形といえる。
LOOKOUTを一言でいえば、“海上法規を守るAI”と“現場が使いやすいUI”をコアに、検出→統合→提案→操船連携→記録までをシームレスにつないだシステムであること、といえる。完全自動化を急ぐのではなく、見張りの拡張から入り、限定条件での自動避航と接岸の実現へ開発を進める。社会実装とログで“使える”を積み上げていく方法は、海でも陸でも変わらない。
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