船舶技術の最前線! 自律運航に風力アシスト、最新の極地探査船も船も「CASE」(1/3 ページ)

「SEA JAPAN 2024」が開催された。1994年の第1回から30周年となる今回は、従来の大型商船や貨物船向けの舶用機器と技術展示に加えて、オフショアと港湾技術にフォーカスした「Offshore & Port Tech」も初めて併設された。この記事では、これらの展示から、電子海図や自動操船関連機器、風力アシスト推進、そして、海洋調査に特化した新鋭船に関するものを取り上げる。

» 2024年04月23日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]

 「SEA JAPAN 2024」(以下SEA JAPAN)が、国際展示場にて2024年4月10〜12日に開催された。1994年の第1回から30周年となる今回は、従来の大型商船や貨物船向けの舶用機器と技術展示に加えて、オフショアと港湾技術にフォーカスした「Offshore & Port Tech」も初めて併設された。

 この記事では、これらの展示から、電子海図や自動操船関連機器、風力アシスト推進、そして、海洋調査に特化した新鋭船に関するものを取り上げる。

エイトノット「AI CAPTAIN」

 エイトノットはAI(人工知能)やロボテックスを開発する創業者と、外部の海事舶用関連開発ベンダーの協業で主に小型船舶向けの自律運航システムを開発しているベンダーだ。

エイトノットでは小型船舶向け自律航行システム「AI CAPTAIN」をメインに展示していた[クリックで拡大]

 そのエイトノットのブースでは小型船舶向け自律航行システム「エイトノット AI CAPTAIN」(以下、AI CAPTAIN)を訴求した。AI CAPTAINは2022年10月に発表されており、2023年1月からは広島で自律運航船による商用運航を実施し、2024年2月からは瀬戸内海で運航する観光船でもAI CAPTAINが導入されるなど商用運航での実績を重ねている。

 エイトノットは、小型船舶の自律運航技術に注力する理由について「大手海事関連企業が大型船向けに自動運航技術を展開しているのに対し、小型船舶に特化することでコストメリットと技術的優位性を出せるため」と説明する。大型船と小型船舶とでは自律運航で求められる制御技術要素が異なるため、小型船舶に特化することでコストメリットが出せて、技術上の優位性も出しやすいのだという。

 大型船と小型船で求められる制御や技術要素の相違は、開発の難しさにつながるという。例えば、大型船はすぐ“止まれない”ため、より遠くを検知して予測し、かなり遠い距離であらかじめ回避する操船が必要になる。一方、小型船は小回りが利くため、検知しなければいけない範囲が異なってくる。それに伴って使用するセンサーの種類も船のサイズによって変わってくる、とエイトノットは説明する。

 自律運航において使用する電子海図は重要な構成要素となる。大型船用としてはENC、小型船舶用としては電子参考図「new pec」など、公的な電子海図が普及しているが、AI CAPTAINでは独自の電子海図システムを採用している。一般的な電子海図は「人が見るための情報」だが、AI CAPTAINでは“システムが見るための海図”を自社で作成し、養殖場や漁業区域などの情報を「自律運航で入るべきではない海域」として組み込んでいる。

 また、避航アルゴリズムは自律運航で重要な要素技術となる。エイトノットではロボテックス開発で得たノウハウを基に小型船舶に特化した形で避航アルゴリズムを自社で構築するべく、独自にシミュレーターを用意してさまざまなパターンでのテストを繰り返して安全な航路を導き出している。加えて、実務にあたっている船長の意見を参考に避航ルールを構築するなど、豊富な操船経験を持つ船乗りの意見を重視し、そのノウハウの蓄積に努めているという。

商船三井「ウインドチャレンジャー」

 商船三井のブースでは風力アシスト推進技術「ウインドチャレンジャー」の取り組みを訴求していた。

商船三井におけるゼロエミッションの取り組みを象徴する帆走コンセプト「ウインドハンター」の模型。同社では2030年までに究極のゼロエミッション船のコンセプトを創出するとしている[クリックで拡大]

 風力アシスト推進は、これまでも長年にわたって多くの船会社や造船会社によって繰り返し試みられてきた。しかし、従来はセイルを閉じることはできても、縮帆もしくは高さを縮めることができなかったため、強風時や無風時において復元性が悪化する(高さが変わらないマストの重さで重心が高くなるため)など、運航において使い勝手が悪く普及が進まなかった。

 ウインドチャレンジャーでは、セイルの伸縮を自在にできるようにしたことで、強風時の縮帆や無風時にマストの高さを低くできるなど取り回しが格段に良くなったという。「こうすることで、例えば橋の下などを問題なく航行できるようになった」(商船三井)

 加えて、向かい風に対しても船首方向から左右40度程度までは、ヨットのクローズホールドのようにセイルで揚力を発生させて進むことができるようにするなど、従来の本船向け風力アシスト推進技術と比べて柔軟に運用することも可能になった。

 また、単に技術的な優位性だけでなく、商船三井から長年にわたって石炭運搬船を傭船している東北電力が風力アシスト推進の採用を承認するなど「時代の後押し」もあると語る。「技術だけでなく、荷主の後押しがあって初めてプロジェクトが成功した」(商船三井)

 商船三井ではウインドチャレンジャーの取り組みによって、2035年までに80基の風力アシスト推進の導入を目指すとしている。

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