中国メーカーがグローバル市場で大きな存在感を示すようになって久しい。急激な発展の要因の1つに、同国が国家レベルで整備を進める「製造デジタルプラットフォーム」の存在が挙げられる。本連載では事例を交えながら、製造デジタルプラットフォームを巡る現状を解説している。第3回は、スポーツシューズメーカーである安踏(Anta)を取り上げる。
中国製造業でのデジタルプラットフォームの広がりを日本と比較しつつ紹介していく本連載。今回はスポーツシューズメーカーである安踏(Anta)を取り上げ、DX(デジタルトランスフォーメーション)の具体的な取り組みと成果について、紹介する。
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まず、中国におけるスポーツシューズ業界について紹介する。中国のスポーツシューズ業界は活況を続けている。市場規模も成長を続けており、業界の集中度も高いため、引き続き成長が続くと見られている。
今後3年間で、中国のスポーツ用フットウェアおよびアパレル市場は、スポーツへの参加人口の増加、快適性と機能性への要求の高まり、スポーツ用フットウェアおよびアパレルの普及率の上昇により、1桁台半ばの複合成長率を維持すると予想されている。中国の経済発展や所得増加、スポーツ産業に対する政策支援により、スポーツシューズやアパレルに対する一人当たりの消費者支出は、まだ伸びる余地があると見られている。
2023年調査による中国のスポーツシューズ/アパレル市場規模は3800億元(7.6兆円、為替レート20:1で計算)以上となっている。2019〜2024年の中国のスポーツシューズ/アパレル市場の複合成長率は5.6%に達し、同時期の小売り売上高の複合成長率(3.6%)や一人当たりGDPの成長率を上回っている。
中国の主要なスポーツシューズメーカーは、安踏(Anta)、李寧(Li-ning)、361度、特歩(xtep)の4社で、この4社で中国市場の4分の1以上のシェアを保有している。
今回はその中で、安踏(以下、Anta)のDXへの取り組みを紹介する。
Antaグループは、中国で売上高が1位の総合スポーツ用品企業である。同社は1991年に設立され、2007年に香港で上場した。2025年もAntaグループは、12年連続で中国のスポーツ用品企業の中で収益トップを維持する見込みだ。
中国では「単一な品類にフォーカス、多ブランド、グローバル化」という戦略を取り、ANTA(中国)、FILA(イタリア)、DESCENTE(日本)、KOLON SPORT(韓国)、MAIA ACTIVE、Salomon(フランス)、Arc'teryx(カナダ)、Wilson(米国)などのブランドを所有し、1万1000以上のオフライン小売店を展開し、2億人以上の消費者にサービスや製品を提供している。
市場からの需要が継続的に伸びている中で、Antaグループでは需要を満たすために製造キャパシティーを増強してきたが、従来の生産方法だけでは、市場のパーソナライゼーションへの要求を満たすことができなくなってきた。バックエンドのサプライチェーンの調整と効率的な運用は、スポーツシューズブランドの競争力において重要なポイントとなる。そこで、AntaグループはDXにおけるエンジニアリングチェーン、サプライチェーン、バリューチェーンを強化し、世界市場で主導的地位を獲得することを目指した。
具体的にはAntaグループの中核製品ラインで、生産ラインや生産管理のデジタル変革を推進し、インテリジェント製造変革を推進することを目指した。
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