全固体電池の課題には、充放電を繰り返しても劣化しない安定した電池性能の確保がある。この難題を解決するため、電極活物質の表面にコーティングを施す技術が注目されている。しかし、その数nmの極薄膜を正確に評価することは困難とされてきた。JFEテクノリサーチがこの「壁」を打ち破る新技術を確立した。
JFEテクノリサーチは2025年9月10日、全固体リチウムイオン電池(以下、全固体電池)の評価サービス強化の一環として、電池性能向上の重要な要素である電極活物質の表面処理層の評価技術を確立し、サービス提供を本格的に開始すると発表した。
全固体電池は、電解質や電極活物質などの構成部材が固体粒子となっている電池だ。液体の有機溶媒を電解質に使用している従来のリチウムイオン二次電池と比較して、漏液のリスクが低いため安全性が高いとされ、さらに長寿命化や急速充電も可能になると期待されている。
このことから、高性能な次世代電池として注目されている。電気自動車(EV)の普及や再生可能エネルギーによる効率的な蓄電技術の需要増を背景に、世界中で全固体電池の実用化を目指した研究/開発が加速している。しかし実用化では、エネルギー密度など電池としての性能向上と、繰り返しの充放電を行っても長期的に安定した電池特性を維持する耐久性で課題が残っている。
電極活物質や固体電解質など電池構成材料の全てが固体粒子である全固体電池で、電池性能を向上させるには、固体粒子同士の接点を十分に確保してイオン伝導性や電気伝導性を確保することが重要だ。
近年では、正極活物質粒子の表面にコーティング処理を施すと電池性能が向上する技術、特にニオブ(Nb)系材料のコーティングに期待が寄せられている。この効果を最大限に引き出すためには、活物質粒子表面に数nmの膜を均一にコーティングする必要があるが、これまではこの極薄のコーティング層の性状を定量的に評価することが難しいとされていた。
そこで、JFEテクノリサーチでは、長年培った微細構造観察技術と最新の画像処理技術を組み合わせ、電極活物質に形成されたコーティング層の均一性などを定量的に評価する技術を確立した。
具体的には、英国に本社を構えるオックスフォード・インストゥルメンツが開発した反射電子(BEX)イメージング検出器「Unity」を国内で初めて導入し(JFEテクノリサーチ調べ)、同社の協力を得ながら極薄膜コーティングの被覆均一性の可視化技術を確立した。
この技術を全固体電池活物質表面コーティングの均一性評価に応用したものが当該技術だ。Unityは、高感度のエネルギー分散型X線分光法(EDX)で得られる元素情報と、走査電子顕微鏡(SEM)の反射電子像による構造情報とを同時取得したイメージを表示できる。これにより、コーティング材料に含まれる特定の元素から発せられる特性X線を検出して膜厚に換算した情報を、SEMの観察画像の上に重ね合わせることで被覆膜の厚みをマップとして可視化することが可能となった。
同技術で得られた情報を、開発や生産のプロセスにフィードバックすることによって、より均一な表面コーティング技術を確立し、全固体電池の性能向上が期待できる。
図2は正極活物質(NMC622)粒子に、JFEテクノリサーチが代表的なニオブ系コーティング材料(LiNbO3)を被覆したサンプルの評価例だ。膜厚の狙い値を6〜20nmの範囲で4水準に変えながらコーティングを施したものと、コート無しのものを比較した。
高感度EDXが検出したニオブの特性X線強度を基に導いたコーティング膜厚の情報を反射電子像に重ね合わせて、観察範囲におけるコーティング膜厚をマップ化している。図2の写真はいずれも5nm以上の厚みでコーティングが施されている部分を赤く表示しているが、いずれの条件でもコーティングを施した正極活物質には膜厚のムラが存在している(膜厚5nm未満の部分が存在)。さらに、図の右下に表示された被覆率の数字からは膜厚狙い値の高いものほど5nm以上の膜厚での被覆率が高くなる傾向などの情報も得られ、数nmのコーティング状態を数値化/可視化した評価が行えた。
JFEテクノリサーチではこのほかに、電池構成部材の化学的性状や電池セルの性能評価に加え、全固体電池の試作サービスなど、幅広いソリューションを展開している。これらのサービスをベースに、自動車や電池、材料のメーカーからの要望にワンストップで対応する体制を整え、全固体電池の普及を後押しする考えだ。
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