そして、閉塞感の打開にもがき苦しんでいた2011年に、製造業界に突如として現れたトレンドワードがあります。ドイツ政府が発表した産業政策であり、「スマート工場」を目的とした「Industry 4.0(インダストリー4.0)」です。今ではニュースでもあまり聞かなくなったものの、ここから世界の主要各国が第4次産業革命を意識し始めました。
スマート工場のコアとなるのは、人や機械などがお互いにつながる(通信する)ことで、「各製品がいつ製造され、どこに納品されるか」などの情報を共有しながら製造工程をスムーズにすることにあります。この技術が進めば、自動化/省人化/省力化が実現し、多品種少量生産でも効率よく生産できるというメリットがあります。
インダストリー4.0が提唱されたあと、フランスの「未来産業(Industrie du Futur)」、中国の「中国製造2025」など、世界の主要国が明確な旗を立てて、立て続けに「モノづくりの未来」についてアピールする動きが出てきました。
わが国も2017年に、目指すべき社会の姿として、AI(人工知能)や情報通信技術を活用し、豊かさと社会的課題の解決を目指した「Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)」を推奨し、世界に発信して現在に至っています。この鍵を握る技術は次の4つになります。
この4つの技術を強化しながら、データを介して機械/技術/人などのさまざまな要素がつながることで、新たな付加価値創出と社会課題の解決を目指すものです。日本ではこれらの手法を活用した「Society5.0(ソサエティー5.0)」(超スマート社会)という目標を掲げています。
Society5.0とは、「狩猟社会(Society1.0)」「農耕社会(Society2.0)」「工業社会(Society3.0)」「情報社会(Society4.0)」に続く新たな社会と位置付けています。この社会像とは、一人一人が多様な幸せ(well-being)を実現できる社会を目指しています。
さまざまな言葉が出てきて混乱しそうですが、第4次産業革命は、大きな技術/産業の変化である一方、Society5.0は、大きな社会の変化を意味しています。
各産業のニーズも多様化/複雑化しており、これらを解決に導くためには、機械工業のデジタル化やさらなる最先端技術の開発は必須です。現在、中国をはじめとする新興国では機械工業が急速に発展していますが、日本では各産業も含めて社会全体のシステムが変わろうとしています。
こうした社会の動きの中で、近年大きな変化があったものの代表格としては、自動車が挙げられます。現在、自動車はハイブリッド(HEV)化と電気自動車(EV)化が進んでいますが、世界中で急成長を遂げているカーボンニュートラル市場を背景に、水素と酸素の化学反応で電気を起こして走る燃料電池自動車(FCV)も注目されています。
その一方で、モーター用の磁石などに欠かせないレアアースについては、中国からの輸入に依存するリスクが問われています。さらに最近では、米国大統領のドナルド・トランプ氏による「化石燃料への依存度を高める動き」が出てきました。米国の政策が変わったことにより、もし、世界中でカーボンニュートラルへの動きが後退してしまえば、先行き不透明となり、開発が鈍化しそうです。
ただ、地球環境保全は人類共通の課題であることは間違いないため、将来的には冷静さを取り戻し、現実的な開発が進んでいくと筆者は見ています。石油から脱却し、クリーンなエネルギーを活用した自動車は、通信機能を備えてコネクテッド化するとともに、インターネットを通じて機能の拡張を可能にするソフトウェアとしての役割も果たすようになるでしょう。
昔と違い、産業や社会構造の変化は、予想を超える速さで進展しており、少子高齢化による労働人口の減少に伴い、機械業界も自動化/省人化に向けた動きが加速しています。そのため、少ない人手で今まで以上の成果を上げるには、AIやIoTを活用したデジタル化、協働ロボットの投入などが必要になります。現在、こうしたことを背景に、機械産業は日々、技術開発に注力しているのです。(次回へ続く)
那須直美(なす・なおみ)
インダストリー・ジャパン 代表
工業系専門新聞社の取締役編集長を経てインダストリー・ジャパンを設立。機械工業専門ニュースサイト「製造現場ドットコム」を運営している。長年、「泥臭いところに真実がある」をモットーに数多くの国内外企業や製造現場に足を運び、鋭意取材を重ねる一方、一般情報誌や企業コンテンツにもコラムを連載、提供している。
産業ジャーナリスト兼ライター、カメラマンの二刀流で、業界を取り巻く環境や企業の革新、技術の息吹をリアルに文章と写真で伝える産業ドキュメンタリーの表現者。機械振興会館記者クラブ理事。著書に「機械ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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