「すり合わせ」や「現場力」が強いとされる日本の製造業だが、設計と製造、調達などが分断されており、人手による多大なすり合わせ作業が大量に発生している。本連載では、ものづくりYouTuberで製造業に深い知見を持つブーステック 永井夏男(ものづくり太郎)氏が、この分断を解決するPLMの必要性や導入方法について紹介する。第3回は、なぜ製造現場と設計現場をつながなければならないのかを事例を含めて紹介する。
本連載の第1回と第2回を通じ「なぜPLM(Product Lifecycle Management)が日本の製造業にとって重要なのか」や「PLM導入がなぜ難しいのか」について説明してきた。第3回となる今回は、あらためてPLMのポイントである「製造現場と設計現場をつなぐこと」が日本の製造業にとって必要なのかについて、失敗事例と成功事例を含めて紹介する。
突然だが、「製造業DX(Digital Transformation)とは何か?」と問われたら、あなたは何を思い浮かべるだろうか?
多くの方が「製造現場のDX」をイメージしたのではないだろうか。具体的にはIoT(モノのインターネット)技術を活用した各装置や各作業員のサイクルタイムの情報取得による改善や予知保全、サイバーフィジカルシステム(CPS)環境で事前に装置のシミュレーション(模擬動作)を行い、装置設計への手戻りを少なくするなどの活動をイメージした方が多いだろう。
このような製造現場のデジタル運用は、日本でもかなり進んできている。もちろん工場によってデジタル運用の活用には差があることも事実で、平成初期(1990年代)からほとんど製造現場の運用が変わらず、DXが進んでいない工場も珍しくない。
さまざまな製造現場でのDX成功事例がマスメディアに登場しているが、愛知県碧南市に本社をおく自動車部品メーカーである旭鉄工は製造現場のDXをいち早く進めてきた企業だ。その取り組みは2015年には始まっていた。
旭鉄工では、独自に開発した磁気センサーや光センサーから、稼働状況、停止時間、生産個数、サイクルタイムといったデータをリアルタイムで収集し、収集した各データはクラウド上に転送され、集計データをタブレットやモニターで瞬時に可視化している。
また、機械や装置が止まった際には「なぜ止まったのか」という停止要因をタブレット端末などで即座に入力できるようにしている。これらを蓄積しているため、停止要因やサイクルタイムのバラツキなどの集計データから具体的な打ち手をすぐに講じられ、ダウンタイムを低減できる。毎朝の朝礼時に同じデータを基に対応策を話し合い「次の日」には現場が改善しているケースが多いという。
旭鉄工のIoTを活用した生産データによる改善活動は、劇的な改善効果をもたらしており、機械の非稼働時間(アイドルタイム)の特定、生産におけるボトルネック工程の発見、さらには特定の作業員による生産性の差の把握が可能になり、毎日打ち手を打つことで生産効率が飛躍的に向上した。結果として、年間労務費4億円、設備投資1億円のコスト削減を実現するなど、目覚ましい成果を上げている。
旭鉄工のような製造現場のDX(デジタルデータによる製造現場改革)は、多くの工場で行われるようになっており、筆者が訪問してきた数々の工場でもさまざまなデジタルデータを基にした改善活動を目にするようになっている。
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