製造現場のDXは各企業で進むようになってきたが、それだけでは製造業トータルで見た場合のさまざまな問題が解決できるわけではない。筆者が大きな問題があると考えているのは「製造現場の改善活動を行ったとしても、具体的にどれだけ(財務的に)効果が出たのか」「どれだけ原価の低減効果があったのか」ということを具体的に説明することができないという点だ。
つまり、いくら素晴らしい現場の改善をしたとしても(サイクルタイムの向上をしても、不良率を低下したとしても)「具体的にどのくらいもうけが出たのか」について、精緻な情報が分からないのだ。改善活動などの経営的成果が明確に示せない。
こうした製造現場担当者の泥臭く粘り強い改善や創意工夫の成果が、正当に評価されない環境となってしまっているのには明確な理由がある。それは、設計と製造がシステム的に連携していないためだ。具体的には、部品表(BOM:Bill Of Materials)と工程表(BOP:Bill of Process)がひも付いていないことが原因である。
簡単に表現をすると、各部品やモジュールを製造するために、どのくらいのプロセス(製造工程)が必要になるのかが分かっていない(データ化されていない)のだ。部品情報とプロセス情報が連携していないので、部品を製造するために必要になった装置や人数、機械の数が分からない。つまり、製品を設計する際に、現場の制約(装置、治工具の制約や工数の制約)や原価が分からずに設計しているのだ。そのため、部品を製造するための原価も分からず、改善によって人工(にんく)を減らしたとしても、原価がどれだけ圧縮できたのかも分からないのである。
もう少し分かりやすく、具体的な話を織り交ぜながら話してみよう。分かりやすいように、身近な生産物として扇風機の設計と製造を実行すると仮定して話を構築する。
ある設計者が扇風機の風量を上げるために「羽根を5mm大きくする」という設計変更を行ったとする。たかだか羽根を5mm大きくする設計変更かもしれないが、製造現場には膨大な負荷が発生する(※)。
(※)羽根の大きさもJIS規格で定められているので5mmの変更はないかもしれないが、あくまで例として考えて頂きたい。
このように、少しの大きさの変更であったとしても、現場技術者(多くの場合は生産技術者)の膨大な付帯作業を引き起こすことになるのだ。一方の設計者は、設計変更に伴う現場の痛みを知らないため、配慮することなく設計を好き勝手に変更してしまうかもしれない(※)。実際に、自動車のメガTier1の担当者でさえ、原価情報を持たずにモデリングを行っている事例を、筆者は何度も見たことがある。
(※)もちろん製造現場の状況をよく理解し、良好な関係を築いている設計者が数多くいるのは事実だが、それは属人的な場合が多く、システムとして確保されていないという趣旨だ
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