何となく、金属製のカッター刃の方が切れ味が良さそうに感じますが、実際に使ってみると、プラスチック刃でも遜色なくテープをきれいにカットできます。
これは前述の通り、刃物で「切る」のではなく、「小さな穴を開けて(応力で)引き裂く」という仕組みを利用しているためです。
プラスチック製のカッター刃でも、ある程度の硬度があり、先端をとがらせておけば、ギザギザの突起に応力が集中し、テープに小さな穴が開きます。その結果、切断ではなく破断によって、テープをスムーズにカットできるのです。
もちろん、耐久性や切れ味の面では金属製のカッター刃に軍配が上がりますが、プラスチック製でも商品として十分な機能性を備えています。
加えて、プラスチックであれば本体と一体成形が可能なため、コストや製造の面でもメリットがあると考えられます。
ここでもう一つ見逃せないのが、「テンション(張力)」の存在です。セロハンテープを引っ張りながらカットするには、適度なテンションが必要になります。テンションが弱すぎるとテープがたわんでうまく切れず、逆に強すぎると本体ごと動いてしまうことがあります。
このテンションを適切に保つための工夫として、本体の重さや底面の滑り止めが役立ちます(卓上型の大きなテープディスペンサーはずっしりとしていて、底面がゴム素材になっている場合が多いですよね)が、今回入手したテープディスペンサーは軽量で、底面に滑り止めなども付いていませんでした。
そのため、テープを引っ張る際には、本体側を手で押さえてテンションをかける必要があります(図7)。ちなみに、ローラー部の軸には穴が開いており、ここに指を入れて押さえると、非常に扱いやすく感じられました。
小さなころから使い慣れたおなじみの文房具であるテープディスペンサーですが、
といったように、シンプルながらも非常にバランス良く設計された道具であることが分かります。
次にテープディスペンサーを使うときには、ぜひこの仕組みを思い出しながら使ってみてください。 (次回へ続く)
落合 孝明(おちあい たかあき)
1973年生まれ。株式会社モールドテック 代表取締役(2代目)。『作りたい』を『作れる』にする設計屋としてデザインと設計を軸に、アイデアや現品に基づくデータ製作から製造手配まで、製品開発全体のディレクションを行っている。文房具好きが高じて立ち上げた町工場参加型プロダクトブランド『factionery』では「第27回 日本文具大賞 機能部門 優秀賞」を受賞している。
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