PLM実現の壁 〜構造的要因と組織のジレンマ〜AIとデータ基盤で実現する製造業変革論(2)(3/3 ページ)

» 2025年05月21日 09時00分 公開
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2.データ基盤を整えることを目的化すると失敗する

 多くの企業では、PLMの実現に向けてまず「データ基盤の整備」から着手する傾向があります。しかし、データ基盤の構築が目的化してしまうと、現場に価値を届けることなく終わってしまうことになります。つまり、整備したデータが実際に使われず、PLMシステムが単なるデータ倉庫になってしまうのです。

 データはあくまで目的を実現するための手段であり、活用されてこそ初めて価値を持ちます。PLMの目的は、製品ライフサイクル全体にわたって業務を最適化することですから、現場がその恩恵を実感できなければ、どれだけ精緻なデータベースを構築しても意味がありません。重い運用工数が残るだけです。

 従って、まず重要なのは「現場での利活用の起点をどう作るか」です。初期フェーズでは、現場がすぐに成果を実感できる用途でのデータ活用を促し、その結果を基に「このデータも使いたい」「こうした分析も可能ではないか」といった現場発のニーズを引き出すことがカギとなります。

 その過程で、必要なデータが明確になり、現場の要望を起点にしたデータ登録/整備が自然と進んでいきます。単に「入力してください」と指示するのではなく、「使いたいから入力する」状態を作ることで、データ基盤の価値が徐々に高まり、結果としてデータの整合性や網羅性も向上していくのです。その後、新たな活用アイデアや改善提案が自然と現場から生まれるようになります。こうした「データ活用の好循環」を生み出すことが極めて重要です。これを筆者の所属するキャディでは「ダブルループ」と呼んでいます。

 このアプローチは一見すると遠回りに思えるかもしれませんが、実際には最も確実な近道です。なぜなら、データの利活用が現場の行動と結び付いている限り、PLMは「使われる仕組み」として定着するからです。逆に言えば、利活用されないまま整備されたデータ基盤は、時間がたつほどに陳腐化し、更新のモチベーションも維持できません。

 言い換えれば、PLMとは単にデータを整備する仕組みではなく、「データを使いたくなる状況」をいかにデザインするかという問いなのです。現場とともに小さな成功体験を積み重ね、活用の裾野を広げていくことが、最終的に強固なPLM基盤の構築へとつながっていきます。 (次回へ続く)

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筆者プロフィール:

八木 雅広(やぎ まさひろ)
キャディ株式会社 エンタープライズ事業本部 カスタマーサクセス本部 本部長

クボタにて産業用ポンプの海外営業を担当し、インドとインドネシア市場において案件の開拓、契約、プロジェクトマネジメントに従事。その後、ボストンコンサルティンググループにて、製造業のお客さまとともに事業戦略の立案や構造改革を推進。モノづくり産業の一員として変革に携わりたいという思いから、2023年よりキャディに参画。

note(Masahiro Yagi)


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