京都大学は、室温下で、4H型炭化ケイ素結晶中の単一スピン情報を電気的に読み出すことに成功した。光照射によって生じる光電流を計測するPDMR法を用いて、従来手法の約1.7倍となる信号対雑音比を達成した。
京都大学は2025年4月16日、室温下で、4H型炭化ケイ素(SiC)結晶中の単一スピン情報を電気的に読み出すことに成功したと発表した。従来の手法に比べ、高効率なスピン情報の読み出しが可能になり、室温で動作する集積SiC量子デバイスの開発につながることが期待される。
SiC結晶中のシリコン(Si)原子の抜け穴に存在する電子スピンは、室温で状態の初期化や操作、読み出しが可能なことから、量子デバイス開発において注目を集めている。今回の研究では、このシリコン空孔電子スピンを単一レベルで検出するため、光照射によって生じる光電流を計測するPDMR法を用いた。
具体的には、高純度なSiC結晶を電力中央研究所が作製し、量子科学技術研究開発機構(QST)で電子線照射を実施。その後、熱処理により個々の識別が可能なシリコン空孔を作製して、PDMR検出に向けて電流捕集用電極とラジオ波印加用アンテナを装備した。このPDMRデバイスを用いて、従来の蛍光によるODMR法とPDMR法でSiC中の単一欠陥の観測を比較した。
どちらの計測法でも、同じ位置に単一シリコン空孔とスポット状の光電流像を観測できたが、PDMR法ではODMR法で見られないスポット像も観測した。このことからPDMR法は、ODMR法では観測できないSiC中の起源が未知の欠陥(スポットX)も高感度に検出できることが示唆された。
また、高パワーで短時間、低パワーで長時間という二段階構成のレーザーパルスを用いてPDMRスペクトルを測定。その結果、レーザーパワーが一定の矩形パルスに比べ、二段構成レーザーパルスではスピン状態の情報を含まない背景電流が10分の1に低減し、SNRは2.3倍向上した。これにより、単一電子スピン状態のコヒーレントな電気的読み出しに成功した。
信号対雑音比(SNR)はODMR法の約1.7倍を達成しており、高効率なスピン情報読み出しが可能になった。シミュレーションではSNRを約3倍に改善できる余地が示されており、今後さらなる高効率化を図り、デバイス動作の実証につなげたいとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.