これらを実現するため、熟練保全者が持つOT(制御技術)ナレッジをあらためて定義したことがポイントだ。日立製作所 インダストリアルAIビジネスユニットインダストリアルデジタル事業統括本部 チーフDXマネージャの吉川裕氏は「最初は取り扱い説明書や保全記録などのOTデータと生成AIを組み合わせ、RAGによる事例検索で原因や対策を示す形としていたが、類似故障で対象部位が特定できなかったり、新規故障で故障原因を間違ったりすることが頻発した」と初期の課題について述べる。
そこで、日立製作所では、熟練者の知見をOTナレッジとし、これがOTデータ(対象の知識)とOTスキル(分析プロセス)の掛け合わせであると定義した。OTデータとしては、工場内設備の設計図面を学習させ、どういう形で製造工程が機能しているのかを理解させた。これに、熟練者の思考の流れに沿った分析プロセスをヒアリングによりモデル化して組み合わせることで、あたかも熟練保全者と同じ考え方で故障の要因分析が行えるようにした。工場設備の図面についてはナレッジグラフ化して生成AIが読み取ることができるようにしており、OTスキルについてはSTAMP(System Theoretic Accident Model and Processes)などを学習させているという。
今後、ダイキンと日立は臨海工場での試験運用を2025年9月までに完了し、設備故障診断AIエージェントを実用化する予定だ。国内工場に優先して本格導入を進めるが、海外工場についても2025年10月をめどに米国とインドに展開する。ダイキン 浜氏は「まずは保全情報をベースとしたものを全面的に展開する。設備図面の学習については品質に直結する優先度の高いものから優先して対応していく」と述べている。
日立では、この設備故障診断AIエージェントを「Lumadaソリューション」として2025年10月をめどに製造業全般に展開する。加えて、設備保全以外の分野においても、OTナレッジとITの融合したアプリケーションを提供する計画だ。また、「AIエージェント開発・運用・環境提供サービス」などOTナレッジを活用したAIエージェントを迅速に開発、提供するサービスも含めて、フロントラインワーカーの業務効率向上を支援していく。
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