現場/経営の“省力化”に役立つ助力装置とは何か【基本編】現場/経営の“省力化”に役立つ助力装置とは何か(1)(2/3 ページ)

» 2025年03月10日 08時00分 公開

助力装置導入に際して忘れられがちなリスクアセスメント

 助力装置を使うと軽々と重い荷を持ち上げることができるため、持ち上げ荷重の省力効果は誰でも体感しやすいです。また、現場でこれまで行われていた作業の一部を、流れを変えることなくそのまま置き換える形で設置できるような現場も比較的多いと言えます。

 この分かりやすさと手軽さから、装置の導入効果がイメージしやすく、実際に現場への導入を検討するタイミングでは、現場感覚でかなり速いスピードで機器が選定され据付・運用されることも多くあります。

 あるとなしでは全然違うこの助力装置ですが、導入することで工程の省力化を実現できはずです。しかし、前章で述べたインクルーシブな工程を作るところまで一歩踏み込んで考えてみた時、その装置導入はこの点についても十分に検討されたものとなっているでしょうか。

助力装置活用の例:パレット積み付け時の荷揚げ補助 出典:シュマルツ 助力装置活用の例:パレット積み付け時の荷揚げ補助 出典:シュマルツ

 既存の作業空間に、作業者が物理操作する新たな機器を導入するということは、そこに新しい相互作用が生まれるということになります。作業者はある種その関係に身体拘束を受けます。

 少し大げさな表現に聞こえるかもしれませんが、例えば身体強度の高い健常な作業者であれば問題ないような作業動作であっても、身体強度がそれほど強くない作業者にとっては比較的強い負荷になってしまうことがあります。

 体格差も生じる負荷の程度に影響します。就業中は繰り返しその作業動作を行うため、その拘束を受ける中で負荷は少しずつ作業者へ蓄積していくものと考えられます。もしそのような潜在的な負荷が存在していたとしたら、場合によっては負荷の蓄積により腰痛などの疾患を早く引き起こしてしまう可能性も否定できません。

 そのため、既存の工程をそのまま助力装置で置き換えるだけにとどまることなく、装置の導入に至るまでの間に、工程設計の観点から改めて自工程を観察することが必要です。

 基本的には荷の上げ下ろし作業という単位作業に着目して助力装置を評価選定するわけですが、作業パターンや作業姿勢をつぶさに観察し、潜在的な見えづらい負荷にも併せて注意を払い、それらを低減するためにリスクアセスメントのサイクルを回していくことが、インクルーシブな工程を作り上げるためには大切になります。

一歩踏み込んだドイツのリスクアセスメント「Key Indicator Method」

 それでは、どのようにリスクアセスメントを行えばよいのでしょうか。

 残念ながら日本においては、このような状況で活用できるような画一的な作業ガイドラインやリスクアセスメント手法は、まだ取り決められていないというのが現状です。

 現場作業での身体負荷に関する対策という文脈で近しいものを挙げるならば、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」というものがあります。ここには「重量物の取り扱いについては、男性は体重の40%まで、女性は体重の24%まで」という制限値が示されています。

 しかしこれは、労働者が人力で扱える荷物の重さの上限値を示した重量規制にとどまります。残念ながら、実環境で想定される身体負荷をどのように推し量るべきかについて指南するものはありません。

 実は海外では、作業姿勢やその持続時間などをもとに、作業観察の要領で作業負荷を見積もることができるアセスメント手法が用いられています。その1つとして、ドイツで使用されているアセスメント手法「Key Indicator Method」を紹介します。

 ドイツの現行法では、職場における事故や疾病を防ぐために、リスクアセスメントの実施および安全対策や健康保護措置を講じることなどが義務とされています。

 ドイツではさらに、そのリスクアセスメントを行うに当たって必要となる具体的なガイドラインと評価手法についても、BAuA(ドイツ連邦安全衛生研究所)から提供されています。

 仮に対象とする作業環境がそのガイドラインで定めている許容範囲を超えるような場合には、従業員の健康を保護するための措置を講じなければならないとされています。

 そのアセスメント手法として、手足を使って行う、いわゆる現場作業に関しては、Key Indicator Methodの活用が提唱されています。これは、単位作業ごとの作業姿勢やその持続時間から評点を求め、その評点をスケールに照らすことで負荷度合いを推定できる手法で、姿勢分類や評点はドイツにおける人間工学研究が生かされています。

 この手法は取扱負荷3kgを基準として、3kg以下の場合と3kg超の場合とで、それぞれ数種ずつに区分けされています。

 今回のように助力装置による影響を検討するケースでは、装置のハンドリングによって人体にかかる負荷(ハンドル把持と方向指示動作)は3kgを下回るという仮定の下で、「KIM-ABP ―Key Indicator Method for assessing and designing physical workloads with respect to Awkward Body Posture―」の評価手法を採用するのがより適切と考えます。

 ここでいうAwkward Body Postureとは、「不自然な/不安定な体勢」という意味です。KIM-ABP(以下、KIM法)は、例えば身体を動かしながら行う機械オペレーションやライン作業、収穫作業、修理作業などの分析に適用できます。

 KIM法に基づくアセスメントシートは、BAuAのサイト、もしくは「KIM-ABP」をインターネットで検索していただけますと、ご覧になることができます。

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