SDVにおけるソフトウェアの「インテグレーション」について考えてみるAUTOSARを使いこなす(35)(3/3 ページ)

» 2025年03月06日 08時00分 公開
[櫻井剛MONOist]
前のページへ 1|2|3       

インテグレーションゴール(Integration Goal):その考え方

 インテグレーションを始めた当初は、「え? SW-C、BSW/RTEパッケージやECU Extractを受け取ったけど、何をどこまでやったら終わりなの?」と悩みました。その考え方を教えてくれる人は、文字通り誰もいませんでした。

 でも、インテグレーション、つまり、「あるものと他のものを組み合わせることで全体を形作る」ということを、「与えられた上位要件のそれぞれを、対応する下位要件群にブレークダウンし、各種構成要素に割り当てる」という当たり前のことに照らし合わせ考えれば、実は以外に簡単に見えてきます(図1〜4)。

図1 図1 システムレベルのV字[クリックで拡大] 出所:長岡技術科学大学大学院で2024年に筆者が担当した「安全・情報セキュリティ特論2」第3回講義資料(要件記述とブレークダウン)より
図2 図2 ソフトウェアレベルのV字[クリックで拡大] 出所:長岡技術科学大学大学院で2024年に筆者が担当した「安全・情報セキュリティ特論2」第3回講義資料(要件記述とブレークダウン)より
図3 図3 要件ブレークダウン[クリックで拡大] 出所:長岡技術科学大学大学院で2024年に筆者が担当した「安全・情報セキュリティ特論2」第3回講義資料(要件記述とブレークダウン)より
図4 図4 インテグレーション(要件ブレークダウンと対)[クリックで拡大] 出所:長岡技術科学大学大学院で2024年に筆者が担当した「安全・情報セキュリティ特論2」第3回講義資料(要件記述とブレークダウン)より

 そして「a)構成要素を組み合わせた時に、上位要件として何を実現すべきか」における“実現すべきこと”を改めてブレークダウンしてみたら、「b)各構成要素間の関係性の制約が生じないか(小分けにすることで上位要件を満たそうとしたときにどのようなことが求められるのか)」、そして「c)そもそも各構成要素に求められることは何か(実は、各構成要素の受け入れ条件)」に分かれます。

 そう、インテグレーションゴールの基本構成要素はa)とb)になる、というわけです。

 ただ、a)が与えられないインテグレーション依頼は圧倒的に多いでしょう(実際、完全なものが与えられるケースを目にしたことはまだございませんが……)。

 もちろん、全てをテストの形式で検証するわけではありません。

 コード生成以降の段階で使用するツールに対するツール認定の考え方次第ですが、Configuration内容をレビューまたはツールベースの自動検証で行うこともできますし、Configuration内容を利用してテスト環境セットアップやテストケース生成を行うこともできるでしょう。

 逆に、自動化しなければ(手動configurationや、人力コード生成のようなことを行っていたら)、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)なんて実現できっこありませんし、そもそも、インテグレーションゴールが表現しきれていない状態で「カバレッジ100%の達成」を主張することもできません。当然ながら、インテグレーションゴールをきちんと達成するのは容易なことではありません。「自動化」の助けを求めていくべきでしょう。

 インテグレーションゴールを考えるのは面倒ですから、丸投げしたくなるかもしれません。でも、「自動化も再利用も、全て(何もかもを)お任せします」というアプローチには、「何も得られない」か「カモにされる」かということ(命名:「ナニモ・カモの代償」)が付きまといます。

 それは当然のことです。なぜなら、「a)構成要素を組み合わせた時に、上位要件として何を実現すべきか」を提示していない場合、マトモなインテグレーターならそれを提示するよう求めてきます。そこで生返事をしてしまえば、インテグレーターは裏付けや確証のない仮説しかないままで進めるしかなく、責任を負うことももはやできません。「殿様商売」ならぬ「殿様インテグレーション依頼/指示」は、よほど定式化され確立されたインテグレーション形態でもない限り、成り立たないのです。

 そして、先に「再利用にはインテグレーションがつきもの」という趣旨のことを申し上げました。つまり、「殿様再利用依頼/指示」も成り立たないのです。

 再利用や分散開発のように、後にインテグレーションが発生するものを作る上では、「後はよきにはからえ」であってはならず、「時系列の後ろ側」に対する気配り(awareness)が欠かせないのです。

 SDVにおいても、定義されたAPIによって世界を切り分けた場合に、そこに断絶が生じてしまってよいのでは決してなく、「本当につながる/つながってもらうためには……」という気配りが欠かせないのです。こんなことが見えてくるというのは、面白いことだと思うのですが、皆さまいかがでしょうか?

次回に続く

 次回は、AUTOSAR Japan Hubとしての活動のご案内をできればと考えています。

筆者プロフィール

櫻井 剛(さくらい つよし)イーソル株式会社 ビジネスマネジメント本部 Solution Architect & Safety/AUTOSAR Senior Expert/AUTOSAR日本事務局(Japan Hub)

自動車分野のECU開発やそのソフトウェアプラットフォーム開発/導入支援に20年以上従事。現在は、システム安全(機能安全、サイバーセキュリティ含む)とAUTOSARを柱とした現場支援活動や研修サービス提供が中心(導入から量産開発、プロセス改善、理論面まで幅広く)。標準化活動にも積極的に参加(JASPAR AUTOSAR標準化WG副主査、AUTOSAR文書執筆責任者の一人)。2024年よりAUTOSAR日本事務局(Japan Hub)も担当。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.