ドイツ工作機械工業会(VDW) エグゼクティブダイレクターのDr. マルクス・ヘーリング氏に工作機械市場の現状について話を聞いた。
エネルギーコストの上昇や中国メーカーとの競争激化などを背景に、ドイツ製造業の低迷が続いている。高い競争力を持つドイツの工作機械業界も影響を受けている。
2025年9月にドイツ・ハノーバーで開催される工作機械見本市「EMO Hannover 2025」の概要発表記者会見に合わせて来日した、ドイツ工作機械工業会(VDW) エグゼクティブダイレクターのDr. マルクス・ヘーリング氏に話を聞いた。
MONOist 工作機械市場の現状をどのように見ていますか。
へーリング氏(以下、へーリング) ドイツの工作機械メーカーにとって欧州向けが50%、中国向けが20%、米国向けが20%となっており、この3つの市場でだいたい90%を占める。
中国はここ数年、成長の兆しが見えない。今後の方向性が見えない状況だ。投資も縮小傾向にある。
米国はインフレ防止法が施行され、政府の補助金などもあり、製造業の国内回帰の動きが見られるようになった。2024年に大統領選挙が行われ、トランプ氏が再び大統領に就任した。トランプ氏が米国経済、世界経済に関して、どのように考えているのか、注視している状況だ。
トランプ氏が打ち出そうとしている関税は、米国に輸出するドイツや日本のメーカーにとって打撃になる。ただし、米国そのものに強力な工作機械産業があるわけではなく、技術の輸入に頼らざるを得ない。つまり、関税は米国にとって追加のコストが発生することを意味する。
欧州は全体として若干の成長が見られるが、ドイツに関しては他国に比べてチャレンジングな状況だ。その要因の1つは自動車産業にある。
政府は自動車の内燃機関を減らしていくと決めたが、EV(電気自動車)はまだ不確定な要素が多い。新たな補助金制度の行方も不透明で、技術への投資がなかなか進まない。
工作機械業界にとって、従来は自動車産業からの受注は全体の35〜40%を占めていたが現状は20%程度になっている。今は機械工学(Mechanical Engineering)が30%と一番大きくなっている。工作機械の技術もそれに合わせて変化しようとしている。
MONOist 日本の工作機械メーカーから、ドイツ政府が輸出規制を強化しているという声も聞かれました。そういった動きは実際にあるのでしょうか。
へーリング ドイツの輸出規制は主にロシアを意識したものだ。兵器製造に転用できる機械を輸出することはできない。
ドイツから見れば、ロシアそのものは市場全体の1、2%で決して大きくはないが、カザフスタンやウズベキスタン、タジキスタンなど周辺国、さらにはトルコもそうした規制の対象になる可能性があるといわれ、中国に関しても意識され始めている。最終的には政府が決めることだ。
欧州市場の課題としては、ドイツ政府や欧州議会の規制や官僚主義も挙げられる。ただ、今後の欧州議会のポリシーについては、グリーンディールから、より欧州域内の競争力を高める方針に変っていくのではないかと考えている。
ドイツに関しては、現状の投資控えは将来がまだ見えてこないためだ。総選挙後(2025年2月23日)に方向性が分かり、回復も始まるのではないか。
MONOist 日本では製造業をはじめ各産業で人手不足が深刻です。ドイツの製造業ではどのような課題を抱えていますか。
へーリング 2024年に行われたJIMTOF(日本国際工作機械見本市)を訪れた際に、日本工作機械工業会の方々と会い、日本とドイツは同じ課題を抱えているという話をした。
ドイツでも若い人がどんどん少なくなっており、人手が本当に足りない。生産面でそうした課題を解決する答えとしては自動化が挙げられる。
ドイツでは、若い人材を育成するために新たに財団「Training and Development Foundation fot Mechanical Engineering」を立ち上げた。そこでは若い人材だけでなく、彼らに教える立場の人々の教育もしている。デジタル化によって変化のスピードも速くなっている。教育する側のアップデートもしていかなければならない。
MONOist EMO Hannover 2025の見どころを教えてください。
へーリング サステナビリティとAI(人工知能)も含めたデジタル化、自動化だ。この3つはそれぞれ関連性もある。
主な来場者は工作機械のユーザーであり、工作機械が今後どのように発展していくのか、何が開発されていくのかに大きな関心を持っている。自分たちが今後、直面するであろう課題の解決にそれらの技術がどのように貢献してくれるのか、また、どんな技術が自分たちのビジネスモデルに影響を与えるのか、という情報を来場者は求めている。
EMO Hannover 2025は「Innovate Manufacturing」をテーマに、工作機械や生産システム、AM(Additive Manufacturing、積層造形)、測定機やソフトウェアなど金属加工のバリューチェーン全体を紹介する。現時点で、35カ国から1300を超える企業の出展を予定しており、日本企業としてはDMG森精機やオークマ、ヤマザキマザックなど約50社が出展する。また、EMOは1975年にフランスで開催されてから2025年で50周年を迎える。EMOもフランス語のExposition Mondiale de la Machine-Outil(世界工作機械展)の略称だ。
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