テレビの会社からエンタメの会社に、ソニーグループを変えた吉田氏の7年間製造マネジメントニュース(2/2 ページ)

» 2025年02月14日 05時45分 公開
[三島一孝MONOist]
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吉田氏のCEO在任7年を振り返る

 ソニーグループでは2025年1月29日に、同年4月1日付で7年間CEO職を務めてきた吉田氏が退任し、会長職に専念する人事を発表している。後任は現在、取締役 代表執行役 社長でCOO 兼 CFOである十時氏が務めるが、第3四半期決算の場が、吉田氏がCEOとして出席する最後の会見の場ということで、これまでの取り組みなどについて振り返った。

photo ソニーグループ 取締役 代表執行役 会長 CEO である吉田憲一郎氏

 吉田氏は「CEOを7年務める中で、経営の打ち手について常に説明できるということを大事に取り組んできた。資本市場とのやりとりの中でも多くを学ぶことができた。7年間で1つ挙げるとすると、初年度に掲げたパーパス(クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす)がある。平井さん(前CEOの平井一夫氏)から受け継いだ『感動』をベースとして、ソニーの取り組みの全てが感動の原動力だという思いを込めた。それが社員や社会との約束だと思って取り組んできた。ソニーグループの社員の内発的な力がパーパスを企業利益につなげるためにも大切だと考えた」と振り返る。

 この「感動」をコンセプトに、在任期間中にソニーグループはエンターテインメントを基軸とした企業へと生まれ変わった。吉田氏は「エンターテインメントを中心とした方向性は平井さんが2012年に訴えたのが最初だ。ただ、その理念にはずっと以前から通じるものがあった。私はソニーグループの経営チームに入る前は、ソニーネットワークコミュニケーションズにいたが、2005年に当時ソネットだった社名をソネットエンタテインメントに変更している。21世紀はエンターテインメントの時代になると見ており、その担い手がネットワークになると考えていたからだ。そのため、最初から平井さんのビジョンには共感があった」と語る。

photo 就任時に「感動」を訴えた吉田氏[クリックで拡大] 出所:ソニーグループ

 さらに、感動へのアプローチとして「クリエイションにシフトする」ということを訴えて、テクノロジーの再定義を行った点なども、ソニーグループの強みと独自性を明確化することにつながった。吉田氏は「ここで示したクリエイションは、コンテンツクリエイションの場という意味もあるが、広く捉えており、ハードウェアやカメラなどでのキャプチャー技術やコンポーネント技術なども対象としている。社内では『Community of Interest』と言っているが、強い動機に近づき、その中でソニーの技術を生かして新たな価値を創造する。特にコアゲーマーとアニメに近づいたのが経営チームで行ったことだ」と説明する。その中で吉田氏は「テクノロジーは重要だ。特にコンピューティングとセンシングはより一層重要となり、今後も期待している」と訴えている。

 また、在任期間中に体制として大きな変化となったのは、事業体ごとに分社化し、ソニーグループによるグループ経営体制となった点だ。各事業個別で成果を生み出す“遠心力”と、ソニーグループ全体最適での成果を生み出す“求心力”の両面で難しいかじ取りが迫られていたが、吉田氏は「両方がとても重要だった。ただ、その両方を結び付ける要としてパーパスがあったのだと考えている。パーパスという約束を軸に遠心力と求心力を結び付けながら取り組んできたのが今の姿だ。吉田がやったというのではなく、ソニーグループの社員一人一人がそのパーパスの下、やってきたと皆が思っているから今があると実感している」と述べている。

10年後の長期ビジョンにどこまで迫れるか

photo ソニーグループ 代表執行役 社長 COO 兼 CFOの十時裕樹氏

 一方、新CEOとなる十時氏はこれまで吉田氏と二人三脚で構造改革に取り組んできたが、CEO就任後も平井氏、吉田氏と同様のビジョンを推進する方針だ。2024年度の経営方針発表では10年後の長期ビジョンとして「Creative Entertainment Vision」を発表。「Creativity Unleashed(創造性の開放)」「Boudaries Transcended(境界を越えたつながり)」「Narratives Everywhere(あらゆる場に広がる体験)」の3つのフェーズを訴えている。

 十時氏は「10年後のビジョンとして訴えたがこの実現にどこまで近づけるかがCEOとして挑戦したいことだ。そのために必要なのが人材の多様性と事業の多様性だ。それが新しいものを生み出す力になると考えている」と述べる。

photo 10年後の長期ビジョンとして掲げた「Creative Entertainment Vision」[クリックで拡大] 出所:ソニーグループ

 現状で足りないものとしては「真のグローバル化」を挙げる。「足りないものは挙げればたくさんあるが、大きく言うとグローバルで勝負するための体制が必要だと考えている。本当の意味でグローバル化ができているかというとそうではない。グローバルトップ企業と比べると規模も収益性も負けているところがある。また、ヘッドクォーターも日本人が多く、グローバルで通用する形でない部分もある。こうした課題を解決していきたい」と考えを説明する。ただ、本社を日本以外に移す考えはないとしている。

 十時氏は、モバイル事業など厳しい環境に入り込んで構造改革を行い、数々の成果を残してきたが、今後は1つの事業というわけではなくソニーグループ全体を経営する立場となる。その違いについて「今でも事業に直接手を触れて取り組むことの方が、苦しくても楽しいと思っている。ただ、両方やってきて考えるのは、事業を経営チームの立場でサポートするのは重要だが『何かをしないといけない』と『不必要なことをやらない』というのは等しく重要だ。これの見極めが、最適な求心力と遠心力のバランスを生み出す」と語っている。

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