北陸先端科学技術大学院大学は、元素ドーピングを用いてセンシング材料のガス応答パターンを精密に制御することに成功した。新たなガス検知選択性の定義は、ガス検知メカニズムの解明に貢献する。
北陸先端科学技術大学院大学は2025年1月16日、不純物となる元素を材料に添加する元素ドーピングを用いて、センシング材料のガス応答パターンを精密に制御し、逆転させることに成功したと発表した。東北大学、大阪大学との共同研究による成果だ。
研究チームは、二酸化バナジウムVO2(M1相)のフェルミ準位に干渉し、元素ドーピングでセンシング挙動を制御する研究を進めた。
初めに第一原理計算を使って、元素ドーピングによるフェルミ準位の変化を予測した。元素周期表のバナジウムの原子番号に隣り合うスカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)をそれぞれドープすることで、VO2のフェルミ準位を下げられる計算結果となった。その中でも、特に構造的に高い安定性を示す第6族元素のMo、W、Crを選び、そのガスセンシング挙動制御に着目した。
超臨界流体反応を活用して0.5at.%のW、Mo、CrをそれぞれドープしたVO2を合成し、センシング挙動を調べた。その結果、フェルミ準位を下げることでセンシング挙動のコントロールが可能なことを実証した。20℃において、Wをドーピングすると、VO2は目標ガスに対する電気抵抗が低減する下向きのセンシング挙動になるが、MoもしくはCrをドープすると、計測目標ガスに対するVO2のセンシング挙動が下向きから上向きに逆転し、電気抵抗が上がることが判明した。
元素ドーピングされたVO2のセンシング挙動は一定ではなく、材料のフェルミ準位に干渉を与えることで、間接的にセンシング材料と電極間のショットキー接合の形成条件を制御し、応答パターンを変えることができたと考えられる。
今回の研究では、作動温度を変えながら3つの材料のセンシング特性評価を実施。ドーピング元素の種類と作動温度、ターゲットガス濃度がセンシング挙動に影響を与えていることを突き止めた。
同研究成果は、これまでの半導体型ガスセンシング原理をベースとしたセンシング材料への理解を超越し、ガス応答パターンで定義された新しいガス検知選択性が有望であることを示すもので、高選択性センシング材料の開発に寄与する。また、応答パターンが制御できるようになったことで、ガスセンシングメカニズムの応用範囲がさらに拡大することが期待される。
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