京都大学らは、鉄原子からナノサイズの鉄クラスター錯体の合成に成功した。低原子価状態になったり凝集しやすくなったりするため、これまで、ナノサイズの鉄クラスター錯体を選択的に合成することは困難だった。
京都大学は2025年1月20日、55個の鉄(Fe)原子を1.2ナノメートル径の正二十面体型に配列した分子を世界で初めて合成したと発表した。名古屋大学、ヨーテボリ大学、京都大学、東京都立大学、筑波大学、ハワイ大学、フリードリヒ・アレクサンダー大学との共同研究による成果だ。
自然界の窒素固定(N2の還元反応)では、タンパク質に存在し多数の鉄と硫黄原子を含むクラスター錯体が酵素反応を触媒とする。また、人工的な窒素固定法であるハーバー・ボッシュ法では、金属鉄が触媒として用いられる。
これらの窒素固定反応は、複数のFe原子を用いることと、複数の水素(H)原子が鉄を架橋することが共通している。これらの共通項を分子として具現化すれば、従来は実現が困難だった、窒素やCO2を他の物質へ変換する反応を可能にする次世代の触媒になる可能性がある。しかし、大きさや構造が一義的に決まる分子としてFe原子を配列することは難しく、従来は最大でも10個程度の鉄原子からなるクラスター錯体の合成例に限られていた。
そこで今回の研究では、55個の鉄原子を1.2ナノメートル径の正二十面体型に配列し、正二十面体型で12箇所存在する頂点に適切なホスフィン配位子を配置することで表面を多数の水素原子(ヒドリド)が架橋したナノサイズの鉄ヒドリドクラスター錯体を合成した。
今回開発した合成手法では、アミド配位子を有するFe錯体と、ピナコールボラン(HBpin)およびホスフィン(PtBu3)をトルエン中で混合する。生成した分子は、55個のFe原子が1.2nm径の正二十面体型に配列した[Fe55]クラスター錯体であることが、単結晶X線構造解析により確認された。
金属原子を集積して得られるクラスター錯体は、低原子価状態になったり凝集しやすくなったりするため、これまで、数十以上のFe原子を含むナノサイズのFeクラスター錯体を選択的に合成することは困難だった。
[Fe55]は12個の頂点にリン原子1個、炭素原子12個から成るホスフィンが配位しており、表面は46個の水素原子(ヒドリド)で覆われている。塊状の金属のバルク金属より表面積が大きいFeヒドリドクラスター錯体は、単位原子当たりの触媒活性が高いと期待される。研究グループは今後、さまざまなサイズや構造のクラスター錯体合成に取り組む考えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.