交流電化の功罪(3/3 ページ)

» 2025年01月17日 08時00分 公開
[岸田法眼MONOist]
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道南いさりび鉄道は木古内駅ホームのみ非電化

 2016年3月26日(土曜日)にJR北海道の北海道新幹線新青森―新函館北斗間が開業すると、江差線木古内―五稜郭間は第3セクターの道南いさりび鉄道に移管。こちらも交流電化されているが、木古内駅の旧江差線ホームは非電化なので、普通列車は引き続き気動車で運転されている。

 道南いさりび鉄道によると、北海道新幹線の開業に伴い、木古内―札苅間を境に交流20000ボルト(在来線用)、25000ボルト(新幹線用)の切替点が設けられたという。北海道新幹線の一部区間は3線軌条(新幹線用の標準軌、在来線用の狭軌を敷設)にしており、新幹線列車以外ではJR貨物の貨物列車(上下合わせて40本、臨時を合わせると最大51本)、JR東日本のクルーズトレイン〈TRAIN SUITE 四季島〉が走行する。

 なお、電化設備について、〈TRAIN SUITE 四季島〉の通行時に料金をいただいているという。

 JR九州も2022年9月23日(金曜日・勤労感謝の日)のダイヤ改正で、車両運用の都合により、佐世保線普通列車の一部を電車から気動車に置き換えた。

交流電化の運用を取りやめるところも

 JR東日本は2022年3月12日(土曜日)のダイヤ改正で、磐越西線会津若松―喜多方間にて電車の運転を終了した。郡山―会津若松間は全列車電車の運転に対し、進行方向が変わる会津若松―喜多方―新津間は気動車の運転が多い。2021年3月13日(土曜日)のダイヤ改正で、会津若松―喜多方間の電車はわずか2往復。気動車で充分対応できるものと判断したのだろう。

 さらに奥羽本線新庄―院内間は2024年7月25日(木曜日)の大雨で不通となっており、2025年ゴールデンウィーク前の復旧を目指している。その際、非電化区間として、新たな道を歩む。新幹線の車両が直接在来線に直通する山形新幹線の開業で、新庄を境に線路が分断されており、大動脈としての役割がなくなったことが大きく影響している。

 以前、この区間に乗車した際は電車2両でも1両で足りるほどの乗車率だったことから、復旧後は気動車1両運転の可能性がある。

長崎本線、一部区間の非電化切り替えは2007年に決まっていた

 JR九州も2022年9月23日(金曜日・勤労感謝の日)の西九州新幹線開業に伴い、長崎本線江北―諫早間を上下分離方式(第2種鉄道事業者はJR九州、第3種鉄道事業者は佐賀・長崎鉄道管理センター)に移行、肥前浜―市布―長崎間は交流電化の使用をとりやめた。

 JR九州ならびに長崎県地域振興部 新幹線対策課によると、その契機となったのは、2007年12月16日(日曜日)に佐賀県、長崎県、JR九州が「三者基本合意」に締結したこと。九州新幹線長崎ルート(現・西九州新幹線)の並行在来線となる、長崎本線肥前山口(現・江北)―諫早間は経営分離をせず、上下分離方式により、開業後20年間(その後、23年間に変更)は引き続きJR九州が運行を維持することになった。

 JR九州はこの合意を受けて、肥前山口―諫早間の「非電化」を鉄道施設(電気設備を含む)の維持、管理を担う佐賀県、長崎県(両県が主となって設立する第3セクターなど)と確認する。2021年4月1日(木曜日)に佐賀・長崎鉄道管理センターを設立した。

 その後、JR九州は在来線特急〈かもめ〉の代替として、博多―肥前鹿島間などに特急〈かささぎ〉を新設し、西九州新幹線の開業から23年間運行することになった(現時点では2045年まで運行の予定)。特急形車両の保有状況に鑑み、電車にて運行することとしたことから、普通列車の運行も考慮し、肥前山口―肥前浜間は交流電化を維持することとなった。

 なお、2024年3月16日(土曜日)のダイヤ改正時点、肥前浜―諫早間の普通列車は7往復と少ない。

 肥薩おれんじ鉄道、えちごトキめき鉄道の日本海ひすいライン、道南いさりび鉄道、奥羽本線新庄―院内間、長崎本線肥前浜―市布―長崎間で共通しているのは、“「特急」という名の稼ぎ頭、大黒柱”がなくなり、“街道”でなくなったこと。後者は「D&S列車」という名目で特急〈ふたつ星4047〉が運転されているとはいえ、観光や行楽に特化した列車である。

 今やJR九州BEC819系など、大容量蓄電池の力で非電化区間を走行できる電車が実用化された。今後は航続距離の大幅な拡大が課題となるだろう。

 一方、JR東日本は水素ハイブリッド電車、FV-E991系HYBARIを導入し、実用化を目指している。双方が発展、充実すると、交流電化区間がさらに縮小することも考えられる。

【取材協力:えちごトキめき鉄道、九州旅客鉄道、佐賀・長崎鉄道管理センター、道南いさりび鉄道、長崎県地域振興部 新幹線対策課、肥薩おれんじ鉄道(五十音順)】

プロフィール

岸田 法眼(きしだ ほうがん)

『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜てきされ、2007年にライターデビュー。以降はフリーのレイルウェイ・ライターとして鉄道の最前線に立つ他、好角家の一面も持つ。著書に『波瀾万丈の車両』『東武鉄道大追跡』(アルファベータブックス刊)、『大阪の地下鉄大研究』(天夢人刊)がある。また、『岸田法眼の旅、鉄道、プロ野球、大相撲などを幅広く語る』(フーミー刊)では、有料マガジンを毎月5回程度配信している。

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