1987年4月1日(水曜日)に国鉄が分割民営化されると、JR西日本は七尾線津幡―和倉温泉間の電化工事に乗り出す。その契機といえるのは、国鉄末期に大阪―和倉温泉間で臨時特急〈ゆぅトピア和倉〉の運転を開始したこと。車両は気動車ながら、大阪―金沢間は電車のエル特急〈雷鳥〉(定期列車)に併結。金沢―和倉温泉間はディーゼルエンジンを作動させ、自走するという、当時は画期的な列車だった。
これが好評を博し、電化することで電車特急を和倉温泉に乗り入れ、スピードアップと輸送力の向上を図ることになった。併せて、金沢―七尾間の普通列車も気動車から電車に置き換えることになった。
当時、北陸本線は坂田―糸魚川間が交流電化ながら、七尾線津幡―和倉温泉間は直流電化に決まった。大きな理由は2つある。
1つ目は北陸本線を走行する電車はすべて交直流電車で、直流電化と交流電化の両方に対応できること。特急形電車は従来の車両で対応できるが、普通列車用の近郊形電車は新たに用意する必要が生じた。
JR西日本は七尾線用の近郊形電車を投入するため、エル特急〈北近畿〉用485系の交流機器を撤去し、113系に移設した。これに伴い、485系は「183系」、113系は「415系」に変わった(参考までに、百の位の1は直流、4は交直流。十の位の8は特急形、1は近郊形を表す)。
2つ目は建設費が安く済むことだ。交流電化にすると、信号や通信設備の取り替え、通信誘導対策が多くなる。さらに断面積の小さいトンネルが多く、跨線橋のある駅が多いため、架線を張るためには、路盤を低くする工事が必要になる。直流電化の場合、可能な限りの改築をすれば、特殊な構造の架線を使えるので、コストの削減ができる。
七尾線津幡―和倉温泉間は1991年9月1日(日曜日)に電化開業。併せて和倉温泉―輪島間をのと鉄道に移管した(その後、のと鉄道は和倉温泉―穴水間に縮小)。
翌週の9月14日(土曜日)、北陸本線坂田―長浜間を交流電化から直流電化に切り替えた。JR西日本の“ブランド”と化した新快速が乗り入れることで、利便性の向上につながる。その後、長浜―敦賀間及び、湖西線永原―近江塩津間も2006年9月24日(日曜日)に交流電化から直流電化に切り替え。10月21日(土曜日)にダイヤ改正が実施され、新快速がついに北陸地方へ足を延ばした。
北陸本線坂田―敦賀間、湖西線永原―近江塩津間の直流電化切り替えは、新快速のさらなる成長、充実、躍進につなげていったのである。
交直流電車は高価なので、国鉄時代からJR東日本羽越本線村上―間島間を走行する普通列車はすべて気動車で運転されている。また、仙石東北ラインの東北本線は交流電化、仙石線は直流電化。双方をつなぐ接続線が非電化で、なおかつデッドセクションを設置できる余裕がないため、気動車での運転となっている。
交流電化のあり方は、JRグループ以外にも波及した。
2004年3月16日(土曜日)、JR九州の九州新幹線新八代―鹿児島中央間が開業すると、鹿児島本線八代―川内(せんだい)間は第3セクターの肥薩おれんじ鉄道に移管された。その際、車両については気動車を導入した。車両の維持費が電車に比べて安いことが大きな理由である。鹿児島本線時代の普通列車は交直流電車3両で運転されていたが、肥薩おれんじ鉄道の日中は1両で足りる。
交流電車(機関車を除く)の導入を見送った背景として考えられるのは、高電圧の交流を降圧するための変圧器や交流を直流に変換する整流器など機器が多く使われており、それらの機器を搭載するスペースが必要になるため、2両以上が必要になるからだ。製造費が高価なのは言うまでもないだろう。
交流電化の設備は肥薩おれんじ鉄道が管理し、JR貨物が費用を負担することで残し、2024年3月16日(土曜日)のダイヤ改正時点、1日5往復の貨物列車が運転されている。また、2020年秋からJR九州の特急〈36ぷらす3〉が週に1回片道のみ運転する。
同様の事象はほかにもある。
2015年3月14日(土曜日)、北陸新幹線長野―金沢間の延伸開業に伴い、北陸本線市振―直江津間は、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインに移管。市振―糸魚川間は交流電化、糸魚川―直江津間は直流電化に分かれる。
北陸本線の普通列車は521系が登場するまで、3両運転を基本としていたが、日本海ひすいラインは、ピークの時間帯を除き、1両での運行で十分な利用状況にあるため、気動車を導入した。その後、JR西日本の455系、413系の交直流電車を購入し、日本海ひすいラインの臨時急行として、営業運転を開始した。
日本海ひすいラインの電化設備はえちごトキめき鉄道が管理し、JR貨物の貨物列車が1日10往復されていることから、線路使用料を支払う。
なお、妙高高原―直江津間の妙高はねうまラインは直流電化で、引き続き電車で運転されている。
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