ここからは、本記事の執筆時点で、Cofinity-Xのマーケットプレースで公開されているアプリケーションを紹介したい。データスペースはコンセプト先行の議論となりがちだが、こういった具体的なアプリケーションがあればユースケースや提供価値に基づいて議論を行いやすいからだ。
データ連携を実施するための接続基盤/OS、技術知識がなくてもコネクターを通じたデータ連携が実現できるConnector-as-a-serviceなどCatena-Xのコンセプトに基づくデータ連携を実現する上での土台を提供するアプリケーションが提供されている。主な提供企業としてはTシステムズ、Cofinity-X、ボッシュ、SAPなどだ。
データ連携において基礎をなすユースケースとして多くのアプリケーションが提供されている。SAPやシーメンス、Cofinity-Xからアプリケーションが展開されている。
CO2排出量モニタリングや、回収/循環を含めたアクションはバッテリーパスポートや、Digital Product Passportの中でデータ連携が必須となるユースケースであり、多くのアプリケーションが既に展開されている。特にバッテリーパスポートは、喫緊の対応課題であることもあり、多くのアプリケーションが存在する。主な展開プレイヤーは、SAP、シーメンス、BASFなどだ。
需要やキャパシティー、供給に関わるデータを連携することで生産計画を柔軟、迅速に組み替えたり、有事におけるサプライチェーンのレジリエンスを確保したりするユースケースである。連携するデータが需要/供給の情報とオペレーションの競争領域に徐々に踏み込むユースケースも生まれてきている。主な提供プレイヤーとしてはSAPや、o9ソリューションズだ。双方ともにサプライチェーンマネジメントソフトウェアの大手であるが、SCMソフトウェアとしては、今後データ連携を活用した高度化が必須になってくると想定される。
また、Cofinity-Xのマーケットプレースでは、アプリケーションの他に一例ではあるものの、オンボーディング(利用開始)に向けたコンサルティングやアドバイザリー、ロードマップ策定、PoC(概念実証)計画策定のワークショップなどのサービスが展開されている。データ連携はSAPやシーメンス、TシステムズなどのIT企業や、フォルクスワーゲンなどのサプライチェーンの下流プレイヤーにとってはメリットが大きく、これらのプレイヤーが中心となって活動を行っている。
しかし、データの出し手であるサプライチェーンの上流企業にとってのメリットや戦略的意義が見いだしづらく、いかにこうした企業を巻き込んでいくのかが課題となっている。そうした中で、企業に対して「データスペースとは何か、何ができるのか、メリットは何か」や、「自社の戦略にいかにデータスペースを組み込んで高度化していくのか」を腹落ちさせていくことが重要となる。データ連携の産業実装においては経営者の支援やサポート、アドバイザリーなどのエコシステムの整備も欠かせない。
Cofinity-Xのアプリケーションを利用したい場合、まず必要となるのが認証だ。会社の情報を登録した上で、クリアリングハウスと呼ばれる認証組織による認証を受ける。認証を得ると固有のID(ビジネスパートナー番号/BPN)が割り当てられ、登録が行われる。いわば電話帳の位置付けであり、電話帳に住所や電話番号を登録しておくと、電話をかけることや、手紙を受け取ることができる。郵便会社は手紙を運ぶが、手紙の中身を把握することはない。それと同様に全ての参加者が固有のIDを取得し、IDを通じてどの企業に所属している主体なのかを把握する。合意した参加者とのみデータを交換し、アプリケーションの使用やPoCを実施できる。
Catena-Xに沿ったデータ共有をするためにかかる費用としては大きくオンボーディングのための費用と、オペレーションのための費用に分かれる。オンボーディング時点においては、オンボーディング支援費用(Cofinity-Xのコンサルティングパートナーへの支払)が必須となる。また、EDCコネクターの導入をインテグレーターに依頼する場合は、EDCコネクターのインテグレーション費用(EDCコネクターなどのインテグレーターへの支払い)がオプションで必要となり、自社でEDCコネクターを導入した場合はEDC認証費用(EDC認証機関への支払い)が必要となる。
また、運用段階においては、EDCコネクターのサービス型での利用を活用する場合はEDCサービス(サービスプロバイダーへ支払い)がオプションで必要となり、Cofinity-Xへの利用料金(Cofinity-Xへの支払い)や利用するアプリケーション利用料(アプリケーションプロバイダーへの支払い)が必要となる。なお、データ自体はデータ保有者側で管理することとなるため、データ保存/管理のための費用は発生しない構造だ。
次回は、製造業向けのデータ共有圏となるManufacturing-Xを取り上げる。(次回に続く)
小宮昌人(こみや まさひと)
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO
東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施。
(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援
専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム/リカーリング/ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)、『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)があり、2024年11月には『生成<ジェネレーティブ>DX 生成AIが生んだ新たなビジネスモデル』(SBクリエイティブ)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
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