欧州の自動車産業が始めるデータ共有、「Catena-X」とは?オートモーティブ インタビュー(1/3 ページ)

コロナ禍で見つかった課題や将来を見据えて動き出した「Catena-X」。これに込めた思いや狙いについて聞いた。

» 2023年05月09日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 コロナ禍で自動車業界はかつてない困難に直面しました。これまでのBCP(事業継続計画、Business Continuity Plan)では、自然災害など特定の地域で一時的に発生する非常事態を想定してきました。しかし、コロナ禍では中国、東南アジア、欧米へと影響が広がり、世界中で生産や物流が止まりました。さらに、いつになれば再開できるのか誰にも分からない状況が長く続きました。自動車メーカーとサプライヤーは情報交換して頻繁に生産計画を見直し、少しでも多くのクルマを届けようとしました。

 その次にやってきたのは半導体不足です。災害時であれば迅速に復旧して以前の供給体制に戻すことも可能でしたが、半導体の供給は年単位の時間をかけても“元通り”にはなりませんでした。

 こうした状況への対策で、多くの企業が取り組んだのはコミュニケーションや情報共有だったのではないでしょうか。もちろん、コロナ禍以前から自動車メーカーと半導体を含むサプライヤーの間で情報共有はあったはずですが、これまで以上に緊密なコミュニケーションをとろうとした企業が多かったように見受けられます。

 この数年間を経て、「自分たちがピラミッドの一番上でデータを集めて所有したいと思っていましたが、これはうまくいっていないことに気付きました」と語るのは、Volkswagen(フォルクスワーゲン)でHead of Digital Productionを務めるFrank Goller氏です。

 その反省や課題認識は、自動車産業向けの欧州発のデータ共有エコシステム「Catena-X(カテナX)」にも反映されています。また、Catena-Xの普及を目指してBASFやBMW Group、Henkel、Mercedes-Benz、SAP、Schaeffler、Siemens、T-Systems、Volkswagen、ZF Friedrichshafenによる共同出資会社「Cofinity-X」も動き始めました。

 VolkswagenのGoller氏とともにCatena-Xに携わるSAPのHagen Heubach氏(Global Vice President, Head Industry Business Unit Automotive)は「ドイツのため、欧州のためだけの取り組みではない」と強調し、日本の自動車産業も参加することを期待しています。

 Catena-Xに込めた思いや狙いについて、VolkswagenのGoller氏とSAPのHeubach氏に聞きました。

写真左からCatena-Xに携わるVolkswagenのFrank Goller氏、SAPのHagen Heubach氏[クリックで拡大]

この数年でVWが学んだこと

MONOist これまでにも、自動車メーカーが主体となってさまざまなデータを集めようとしてきました。Catena-Xは何が違うのでしょうか。

Goller氏 この数年間でいろいろなことを学んできました。最初はVolkswagenも自分たちでデータを所有したいと思っていました。つまり、自分たちがピラミッドの1番上に行って全て定義しようとしましたが、これはうまくいっていないということに気付きました。サプライヤーやパートナーとのデータ共有ができていなかったのです。そこで、より高いレベルでパートナーと協力できるようなシステムが必要だと考えました。

 データを共有するには、双方にとってWin-Winになるデータを共有する動機やメリットが必要です。Catena-Xでは、自動車メーカーとサプライヤー、モビリティサービスのプロバイダーなどがピラミッドではなく平等なエコシステムを通じてWin-Winな状況をつくっていきたいと考えています。これはこれまでの自動車業界とかなり違うところです。

MONOist 自動車業界が直面している課題をどう見ていますか。

Goller氏 自動車業界の一番大きな課題は企業間にあります。サプライチェーンの堅牢性やレジリエンス、透明性、サステナビリティ、カーボンフットプリント、サーキュラーエコノミーなど、1つの会社、1つの国や地域ではこれを解決したり管理したりすることができません。協力できないとみんなが負ける状況です。自動車メーカーだけでなく、原材料やリサイクルされるまでを含めた全てのバリューチェーンが関わるためには情報交換が必要です。

 協力するには信頼が必要です。そこでカギになるのがデータ主権だと考えています。100%信頼できて初めてデータを共有することができるからです。データを盗もうとするなど、データ主権にコミットしない会社は参加できません。Catena-Xはデータをセキュアに、安全に共有できることを日本の自動車産業にも伝えたいです。

 Catena-Xの中核となる考え方はWin-Winです。自動車メーカーとサプライヤー、ITプロバイダーも含めてWin-Win-Winであるべきです。グローバルなWin-Winを実現するために、SAPなどITの専門家がCatena-Xに参加して、自動車メーカーだけでなく中小のサプライヤーにとっても良いシステムを作ります。

 テック企業大手はデータを集めてリンクさせてステークホルダーに提供しますが、彼らがデータをどのように扱っているのか、誰がどういう風に使っているかは分かりません。Catena-Xが構築しようとしているのはデータを集めるプラットフォームではなく、信頼できるデータ交換のネットワークです。

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