欧州を中心にデータ共有圏の動向や日本へのインパクトについて解説する本連載。第5回は、自動車向けデータ共有圏であるCatena-XとCofinity-Xを紹介する。
本連載では、「加速するデータ共有圏/データスペースの最新動向と日本の産業へのインパクト」をテーマとして、データ共有圏/データスペースの動向やインパクト、IDSA(International Data Space Association)、GAIA-X、Catena-X、Manufacturing-Xなどの鍵となる取り組みを解説していく。連載第5回となる今回は、自動車向けデータ共有圏であるCatena-XとCofinity-Xを紹介する。
データ共有圏はデータスペース(Data Space)とも呼ばれている。データの共有/交換は、従来はプラットフォームを介したデータ共有が一般的であり、提供されたデータの活用やマネタイズについてはプラットフォーム側が実施し、データ所有者は関与できないものだった。
一方で、現在欧州発で検討が進むデータ共有圏=データスペースについては、データの出し手と受け手をコネクターで直接つなぐ分散型の共有となる。コネクターを活用し、データ所有者と利用者が直接データ共有を実施する。データ主権が担保され、データ所有者が「他者がデータをどのように、いつ、いくらで利用できるかを自己決定することができる」のが特徴だ。
データ共有圏では多くの組織が動いている。本連載の中でそれぞれの組織の動向は詳述するが、ここでは大きくその位置付けを示したい。まず、主要な組織としては大きく2つに分かれる。業界共通での仕組み作りを担うのがIDSAとGAIA-Xだ。
その土台の上に、自動車業界ではCatena-X、製造業全般においてはManufacturing-Xなど、業界ごとの仕組み作りを担う組織の活動が位置付けられる。後述するCofinity-Xは位置付けが他と異なり、Catena-Xの仕組みの上で個別のソリューションを展開するサービス企業となる。その中で、本記事で詳述するのがCatena-XとCofinity-Xだ。
Catena-Xは、自動車業界において安心安全にデータ共有を行うためのルール、標準、規格を策定するための組織だ。自動車業界は、コロナ禍や半導体の供給不足、欧州と関わりの深いウクライナやイスラエルでの紛争などでサプライチェーン分断の危機にさらされている。また、欧州で策定されているバッテリー規制などに対応していくためにデータ共有が必須となる中で、既存のプラットフォーム型ではデータ共有にリスクや不安が伴う。
そこで、安心安全にデータ連携を行うための取り組みを進めているのがCatena-Xだ。Catena-Xは、ドイツ政府の支援を受けて約150億円をかけて自動車業界における情報共有インフラを整備している。非営利組織であり実アプリケーションなどは提供せず、現在はマーケットプレースやアプリケーションの提供は合弁会社であるCofinity-Xを通じて行われている。この点は後述する。
Catena-Xにおけるデータ連携としては、GAIA-Xを取り上げた連載第4回でも紹介した「EDCコネクター(the Eclipse Data Space Connector)」と呼ばれるオープンソースのコネクターを活用している。IDSAのIDSコネクターを、GAIA-XのコンセプトであるFederation Service(クラウドでの分散型共有)により適した形でアップデートしたものだといえる。企業やデータスペース同士がEDCコネクターを介してデータ主権を担保した上で、安全かつ自律分散的なデータ共有が可能となる。EDCコネクターを通じてデータのやりとりが行われる。
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