産業技術総合研究所は、生体神経組織の動作を模倣するトランジスタの動作実証に成功した。外部から入力したパルス信号を内部でゆっくりと時間変化する信号に変換することで、生体神経素子のリーク積分と呼ばれる振る舞いを模倣する。
産業技術総合研究所は2024年11月28日、東京大学、九州大学、兵庫県立大学、名古屋工業大学と共同で、生体神経組織の動作を模倣するトランジスタの動作実証に成功したと発表した。
開発したトランジスタは、外部から入力したパルス信号を内部でゆっくりと時間変化する信号に変換することで、生体神経素子のリーク積分と呼ばれる振る舞いを模倣する。酸化物半導体のチタン酸ストロンチウムをトランジスタのチャンネルとし、素子中の酸素欠損イオンを動作に利用する。ゲート電極に電場を印加すると素子内部の酸素欠損イオンが移動し、時間とともに電流がゆっくり変化する信号として取り出せる。同トランジスタは、従来のMOSトランジスタよりも100万倍以上ゆっくりと動作し、500pWという低い消費電力で動作する。
ゆっくり動作するトランジスタの特性は、人工的に生体神経系の動作を模倣したニューラルネットワークの構築に適している。開発した素子を想定したシミュレーションで、ヒトの筆跡から誰のものかを当てる「筆跡の異常検知」の検証を実施した。その結果、ゆっくりと動作するトランジスタでは異常検知に成功し、10万倍早い素子によるシミュレーションでは異常検知に失敗した。したがって、ヒトと相互作用するような情報を処理するニューラルネットワークでは、素子の遅さが動作に重要な役割を果たすことを示した。
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