本連載第107回で触れたように、EU各国では、欧州AI法(2024年8月1日発効、関連情報)に向けて、さまざまな取り組みが進んでいる。
2024年5月20日、イタリア議会上院は、「イタリア人工知能(AI)法案」(関連情報)を上程した。同法案は、欧州AI法に準拠して、人間中心のアプローチに従い、AIの公平、透明、かつ責任ある利用を促進し、潜在的な経済的・社会的リスク並びに基本的権利へのリスクを監視することを目的として、以下のような目標を掲げている。
イタリアAI法の所管に関しては、以下の2機関が関与する形態を提案している。
イタリアのデータ保護監督機関Garanteは、AIに関する所管機関に指定されていないが、個人データの処理に関する権限と能力を有している。
さらに、イタリアAI法案の特徴は、医療セクターで利用されるAIシステム向けの特別ルールを設定している点にある。具体的には、表3のようなルールを提案している。
その後2024年7月22日、イタリアデジタル庁(AgID)は、「2024-2026年イタリア人工知能(AI)戦略」(関連情報)を公表している。この戦略では、保健医療(Health)を適用対象セクターの一つに挙げて、医療分野におけるAIデジタル技術の推進に関連する側面だけでなく、予防に関連するすべてのこと、より健康的なライフスタイルの定義、より脆弱な人々のケアも含むとしている。
既にEU域内の統一ルールとなる包括的な法的枠組みを定めた欧州AI法が発効したが、保健医療分野のAI利用に係る具体的なルールづくりでは、イタリアの方が先行している。EUの場合、域内の統一ルールを定めた「規則」、域内のミニマムスタンダードで実際の法令制定/運用や法執行執行措置は各国当局に委ねる「指令」、そして各加盟国独自の法律が複雑に絡み合う規制環境となる。EU域内でeヘルス事業を展開する企業は、イタリアの動向を注視する必要があろう。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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